空想ブログ  蒼い空の下で

主にドラマ「白い影」のサイドストーリーです

陽だまり

2001年11月

 

北海道の泰子のもとに電話が入る

「お母さん、産まれたって!!」泰子が受話器を置き、一恵に伝える

「あら~!赤ちゃんと倫子さんはどうなの?」一恵は親子の様子を気遣う

「母子ともに健康ですって。男の子」泰子が答える

「まぁ...良かったわね」一恵が安堵の表情を浮かべる

 

4日後、一恵と泰子は飛行機に乗って東京に向かった

倫子と産まれた子供を見舞うためだ

 

清美に教えられた、住所を頼りに都内にある産婦人科病院にたどり着いた

 

「おじゃましまーす」泰子と一恵は倫子が入院している部屋に入る

 「お母様とお姉さま、わざわざすみませんね...」倫子はベットの上で礼を言う

 「こちらこそあの子の子供を産んでくれてありがとう。母子ともに健康で良かった...これから私たちもサポートするから、何かしてほしいことがあったら言って」泰子が倫子の肩に手を置きながら言う

 「ありがとうございます」倫子は笑みを浮かべながら礼を言う

 

清美も含めて4人で新生児室に向かう

 

「これが、先生の赤ちゃん」倫子が手で指し示した先には赤ん坊がすやすや眠っていた

 

新生児室から出してもらい、一恵がだっこをする

赤ん坊は切れ長の瞳と筋の通った鼻をしていた

 「あの子に似てるわね...あの子が産まれた時のことを思い出すわ...」一恵はそう言って目を潤ませる

 「生まれ変わりね」泰子もつぶやく

 「私、ようすけとつけることにしたんです」倫子は笑みを浮かべながら言う

 「あの子と同じ名前?」

 「ようの字は陽だまりの陽にします。先生が私に遺してくれたひだまりのような子なので」

「まぁ...」一恵と泰子は涙ぐむ

 

二人が帰った後、倫子は病室で陽介を抱きながら心の中でつぶやいた(陽介、産まれて来てくれてありがとう。先生、二人でしっかり生きていくので見守ってくださいね)

 

恋の花火

誕生会の翌日、明日の飛行機で北海道に帰る泰子たちは帰り仕度をはじめていた

 

「今日は川沿いで花火大会があるの。行く?」倫子は杏奈を誘った

「行きたい!」杏奈は嬉しそうに答える

「そんな悪いですよ」泰子は身重の倫子を気遣い止める

「いえいえ、私も花火好きなんで...行きましょう」

 そう言って杏奈と倫子は花火大会に出かけた

 川沿いには出店が並び浴衣を着た人でごったがえしている

 「ここに座ろう」杏奈と倫子は飲み物を買うと空いたスペースに腰をおろした

 「あれ、もしかして志村さん?!」その時、後ろで聞きなれた声がした

振り返るとそこには亜紀子が立っていた

青地に白の花模様がついた古典的な柄の着物が小動物のような愛らしい顔立ちとスラリとした長身に良く似合っている

「高木さん!」倫子は驚きながらも笑みを浮かべる

「志村さんも見に来ていたのね!あれ?ご一緒にいるのは?」

「直江先生の姪っこなの」倫子は亜紀子に紹介するように言う

「直江先生の姪?美人さんね。目元が先生に良く似ているわ」

そう言われて杏奈ははにかむように笑みをうかべる

 「高木さんは今日は誰かと?」倫子はうちわであおぎながらたずねる

「そうなのよ」亜紀子はとてもうれしそうに言う

 

「ごめん!ちょっと遅くなってしまった」その時、聞き覚えのある男性の声がした

 振り向くとそこにはポロシャツとチノパン姿の小橋医師がいた

 

「小橋先生!」倫子は声をあげる

 「志村さんお久しぶりです。お腹もすっかり大きくなって...」小橋は依然と変わらない爽やかな笑顔であいさつをする

「お久しぶりです!ということは...まさか」倫子が小橋と亜紀子を交互に見ながら笑みを浮かべる

「そう、そのまさか」亜紀子が嬉しそうに答える

 

「遂に、高木さんの愛がかなう日が来たのね!!良かった~高木さんと小橋先生どうなっているのか気がかりで...小橋先生ったら高木さんの想いに鈍いんだもん」倫子は自分のことのように喜ぶ

「僕もね、先月大学に用事があってやってきた河森先生に言われるまで気付かなかった」小橋が恥ずかしそうに微笑む

「河森先生がね、教えてくれてね。それでやっと気付いてデートに誘ったんだ」

「そう、今日が初デート」亜紀子が得意げに答える

「そうなんだ~お二人ともお似合いですよ。ヒューヒュー」倫子がはやし立てる

「そんなそんな照れるな...お隣にいらっしゃるのは?」小橋が杏奈に目をやる

「直江先生の姪です」倫子は紹介する

「そうですか~美人だね。直江先生に似ている。こんにちは」そう言って小橋は杏奈に優しく挨拶する

「でしょう。直江先生も一緒にいたらよく娘に間違われたみたい。あっ!お二人の邪魔しちゃダメだからこの辺で。じゃあ」倫子はそう言って場を離れる

 

「志村くん、花火大会を見れるまでに立直れて良かった」小橋が倫子の後ろ姿を見ながら言う

「そうね。この日、志村さんと直江先生がデートしているところに遭遇してみたかったな...」亜紀子が切なそうにつぶやく

「そうだな...」小橋もつぶやく

「でも来年は倫子さんは子供と一緒だね」亜紀子は明るく言う

「うん、そうだね。僕は奥さんと一緒」小橋が笑みを浮かべながら言う

「えっ?」亜紀子が驚いたように小橋の顔を見る

「君と結婚したいな」

「嘘...」

「本当、一緒に仕事してみて君の素晴らしさはもう知っている」

「嬉しい...」

「末永くお願いします」小橋は笑みを浮かべながら亜紀子の手を取る

 

花火がそんな二人を祝福するかのように夜空に響き渡った

 

 

 

誕生日2

仕事が終わって、倫子は帰り仕度をしていた

「志村さん、良かったら送るよ」一緒に着替えていた河森が言う

「いえ、そんな良いですよ」そう言いながら倫子はマタニティドレスの上にパーカーを羽織る

「遠慮しないで、今日は先生の誕生日でしょ」河森が二コリとして倫子の肩に両手を置く

「なんでわかったんですか?」倫子は驚いた顔で河森を見つめる

「ふふふ、私も二年前のその日、お祝いしたんですよ。外科の医局メンバーと!」河森が腕を組みながら言う

「そうなんですか」直江先生が職場の人に誕生日を祝ってもらっていたということに倫子は驚く

「あのマンションでお祝いするんでしょ。」

「そうです」

「じゃあ送るわね」

「良いんですか?ありがとうございます」

 

河森が運転する倫子を乗せた車がマンションに到着した

「ありがとうございました」倫子は車を降りると運転席の河森に礼を言う

その時、マンションから倫子を迎えに泰子が出てきた

「こんにちは、あっ!運転されている方はもしかして」泰子が運転席を覗きながら言う

「あっ!もしかして、お姉さまですか?私、行田病院でお世話になりました河森です」河森も礼をする

「やはり、そうだったのね。こちらこそ弟がお世話になりました。」泰子は深々と礼をする

「じゃあ、今日はこの辺で」河森は車を発進させようとする

「あの...もし良かったら、誕生日会で作ったごちそう食べていきませんか?」泰子が言う

「いえいえ、そんな悪いですよ」河森は遠慮する

「ちょっと多めに作ったんですよ。遠慮なさらずに。庸介だって先生がお祝いしてくれるの喜びます」

「良いんですか...ありがとうございます」河森はお祝いに参加することにした

 

「この部屋を整理していたら、庸介が誕生日をお祝いしてもらっているような写真が出てきたの。さきほどお姿を見た時、そこに写っている方だとわかりましてね」

部屋に上がった河森にコーヒーを出しながら泰子は言う

「直江先生には本当にお世話になりました。仕事ではもちろん、恋愛相談にものってもらって」

「恋愛相談?!」一恵が驚く

「私は女子高育ちの一人っ子で、男心がわからないのでよくアドバイスもらってましたよ」河森が照れながら言う

「あの子だってそんなに恋愛経験はないのに?」泰子がおかしそうに言う

「でも、私が今の旦那に対する不満を相談したら、男性としてはこうだからこうなんだよとか男性の立場からの気持ちを語ってくれて...それとお姉さんがいるからか、私の気持ちもよく汲み取ってくれましたよ」河森笑みを浮かべながら言う

「そうそうお姉さまと私が同じ名前だって、私の下の名前知った時言ってたな」河森が昔の記憶を懐かしむように言う

「お姉さんについて、外で働くお母様を支え、僕のこともよく面倒をみてくれたと」

「まぁ...」

「それにしても姪の杏奈さんと先生似てますね。涼しげな目元とか」河森は泰子の手伝いをする杏奈を見ながら言う

「姪の杏奈ちゃんのことも話してくれたなぁ。健やかに育って欲しいって。そういえば杏奈ちゃんへのプレゼントを相談されたこともあったなぁ。そうそう玄関に会った杏奈ちゃんがかぶっていた麦わら帽子、先生がカタログ見て迷いながら注文してましたよ。どれが似合うかなとか言いながら、まぁ美人だから何でも似合うんだけどなとかのろけながら」

「まぁ...」一恵はそれを聞いて涙ぐむ

「その様子見て、先生も良いお父さんになりそうだと思いましたから。それなのに...」河森が涙ぐむ

「でも、天国で倫子さんと赤ちゃんのこと見守ってくれてますよね」河森が泣きながらも笑顔で言う

「そうですよね...」一恵と倫子も涙ぐみながら笑みを浮かべる

「出来たわよ~」泰子が上がりたての総菜を持ってくる

「さぁ、いただきますか」倫子が言う

「いただきまーす」

 

「塩辛と言えば、先生が分けてくれたことがありましたよ」河森がジャガイモに塩辛を乗せたものを食べながら言う

「北海道から塩辛とかよく送ったものね...」一恵は昔を思い出しながら言う

「でも先生と塩辛って想像つかないな」そばをすすりながら清美が言う

「あの子、北海道にいる時、よく塩辛とか食べてたわよ。小さいころ私が冷蔵庫にあの子がとってあった塩辛食べちゃって喧嘩になったことがある」泰子が笑いながら言う

「あの先生が食べ物で喧嘩?!」倫子が噴き出す

「いや、本当よ。それでお母さんに二人して怒られた」泰子が言う

「わたしは塩辛残そうとしたらちゃんと食べなさいとご飯にのっけられたことがある。それで泣いたら、おばあちゃんが飛んできておじさんがしかられてた」杏奈も言う

「先生が叱られる?!」想像も出来ない姿にまたもや噴き出す

「先生にも可愛い時があったのね」河森も噴き出す

その日、5人は直江の誕生日を祝いながら夜遅くまで思い出話に花を咲かせた

誕生日1

8月9日

 

この日は直江の誕生日だったが倫子はいつも通り、勤務をしていた

 お腹が大きくなったので、マタニティ用の制服に身を包んで働いている

 

「仕事終わったら、今日はお母様達と先生の誕生日会。早く片付けなくては」倫子はそう考えながら書類の整理をしていた

 「こんにちは」

その時、聞き覚えのあるちょっとしわがれたハスキーな声がした

 顔を上げるとかつてMRとしてこの病院に出入りしていた二関小夜子が立っていた

 ロングヘアを一本に結いあげ、白いワイシャツにジーンズというシンプルな出で立ちをしている

以前は色気を引き出すような女性らしいスーツに身を包んでいただけにその姿は新鮮だったが、そのシンプルな格好も小顔で長い手足を持つ彼女に良く似合っている

 目鼻立ちの整った美貌は以前と変わらないが以前のような険がなくなり、明るくサッパリとした雰囲気だ。屈託のない笑顔を浮かべている

 

「二関さん!?」倫子は突然の訪問に驚く

 「ちょっとここに母がお世話になっているもので、お見舞いに来たの」

 「お母様ですか?」

 「そう。二関小枝子」

 「二関さんってお母様だったんですか?!」倫子は盲腸で入院した患者を思い出した

若いころはさぞ美人だったであろう丸顔と目鼻立ちのはっきりした顔立ちのその患者は確かに小夜子に似ている。

 「そうなの。お世話になってます」

「へぇ~」

「お仕事忙しそうね。お邪魔してごめんなさいね」

「いえいえ」

「あと3カ月で産まれるみたいですね。元気な赤ちゃん産んでくださいね。あっ、これ皆さんで食べて。」小夜子はそう言って紙袋を渡す

それは話題の人気店のアイスだった

 「倫子さんにはこちら」

倫子には別の紙袋を差し出す。中には有機野菜のジュースの瓶が入っていた

 「良いんですか?ありがとうございます」倫子は満面の笑みを浮かべながら言う

 「あら~こういうところは前と変わらないわね~」そばで見ていた川端がちゃかす

 「そんな、今回は皆さんにアイスでも食べて、リフレッシュしてもらいたいなって心から思ってるんです!前みたいに営業じゃないです」小夜子が反論する

「皆さんともっとお話ししたいけど、私も用事があるので...これで失礼します」

小夜子はそう言うとエレべーターのほうへ歩き出した

 「小夜子さん変わったよね」看護師の鳥海がつぶやく

 「うん、すごい穏やかな顔つきになった」準看護師のかおるもつぶやく

 「実は営業より研究のほうが向いていたんでしょうね」関口婦長もつぶやいた

 「いや、恋してるからだよ」神崎がつぶやく

 「えっ?誰と」亜紀子が不思議そうに尋ねる

 「そりゃ...」神崎が得意げに言おうとした時

 「ちょっと~、それはまだ秘密にするって約束でしょ~」その声を聞きつけ小夜子が戻ってきた

 「うわ~お前、耳良いな」神崎はしまったという表情をする

 「あんたの声でかいのよっ」小夜子が呆れたように返す

 「お前って...まさか...」川端が驚いた表情で尋ねる

 「そのまさかです」小夜子が照れながら答える

 「俺たち、付きあってまーす」神崎が声を張り上げる

 「全く、声でかすぎ!!」小夜子が神崎の頭を軽く叩く

 「うそ~」その場にいた全員顔を見合わせる

 

小夜子は帰ってしまった後、ナースセンターでは神崎との交際の話で持ちきりだ

 「一体、何がきっかけだったんですか」かおるが尋ねる

 「実はね、ちょうど直江先生が亡くなる直前かな、彼女が落ち込んだ様子で病院の休憩室にいてね。気になって声をかけてみた」神崎は缶コーヒーを飲みながら言う

 「そしたら、直江先生の病気とは言っていなかったんだけど、自分の無力さにすごく落ち込んでいると泣き出して。小夜子さん...いやあいつといえばいつも余裕がある大人の女性ってイメージだったからびっくりしたよ」

 「それでさ、僕で良かったら話聞きますと電話番号渡したんだ。付き合うつもりなんて全くなかった、というかあんな綺麗な人と俺が付き合えるわけがないと思っていた。」

 

「直江先生亡くなった後、あいつから電話があってね。直江先生のことは言っていなかったけど、亡くなったことに憔悴しているみたいだった。それと新しく異動した研究開発部の人達と打ち解けられず悩んでいるようでさ」

 

「神崎先生は人となじむの得意だからアドバイスが欲しいと言われてね。それから電話でたびたび会話するようになった」

 

「そのうち色んなことを話してくれるようになって、あいつはあんな感じに見えて、色々抱えてきた人なんだ...」

倫子たちナースセンターの面々はすっかり聞き入っている

 

「あいつは代々医師の家系に育ってね、医師の選民意識と男尊女卑が激しい家で元看護師のお母さんと彼女は常に差別的な扱いをされていたみたい。ずっと医学部に進学するように言われ続けてきたけど、医学部は受からなくて医師になった兄弟と比較されて育ったんだって。もともと薬学に興味あったから医師にならなかったことには後悔もなかったみたいなんだけど、比較されて常に劣等感を感じていて。それで製薬会社に入って男性に負けずに出世して見返したいと躍起になって、あんなに営業に必死になっていたんだ。それと社会人になりたての頃にご両親が離婚してね、身体の弱いお母さんを彼女が養っていた」

 

「小夜子さんも苦労したのね」婦長が聞き入る

 

「あいつのお母さんがね、製薬会社に入って営業成績優秀な娘を誇りに思う反面、娘は色んな事を犠牲にして無理してるんじゃないかと不安だったみたい。当初は薬剤の開発者目指して薬学部に進学したようだったし、決して社交的ではないタイプだったから、営業は向いていないんじゃないかと思っていたみたい。今は自分に合った研究職として働く彼女を見てお母さん安心しているんだ」神崎は語る

 

「小夜子さんもひたむきに仕事頑張っていた人だよね」亜紀子もつぶやく

 

「最初はあいつのことすごい綺麗な人だなぐらいに思っていただけだけど、彼女の内面を知って行くうちに好きになってしまって...振られる覚悟で告白したら、オッケーしてくれて」神崎は照れながら言う

 

「へぇ~神崎先生も男気と包容力があるじゃん」黙って聞いていたかおるが思わず言う

 

「でも、神崎先生だからこそ、二関さんは心を開いて色々話せたんでしょうね」

倫子はそういうと直江と小夜子の噂を思い出した

 

直江先生には小夜子も魅力を感じていたのかもしれないが、こんなにすべてをむき出しにして話せるのは明るい神崎先生だっからなんだろう

 

「そうそう、来年6月に結婚するんですよ。僕たち」神崎がパッと笑顔になり言う

 

「えぇ~」一同は驚きの声を上げる

 

「先日、プロポーズしてしまった!」神崎はにやりと笑う

 

「おめでとう~」拍手が沸き起こる

 

「そうそう、結婚式で自作の歌を披露するのに今練習してんだよ」神崎はギターを弾く真似をする

 

「歌はやめたほうが...志村さんの歓迎会でカラオケ一緒に行きましたけど、噴き出しそうになりましたよ」川端が言う

 

「上手さじゃない、愛だよ愛!!」神崎は得意げに答える

 

「小夜子さんドン引きだろうな~。結婚式場で振られたりして」かおるがつぶやく

 

「みんなひどいな~」

 

ナースステーションは笑いに包まれた

 

 

 

 

 

 

 

ガラスのボート2

三人は予約していたホテルに戻った

 

杏奈は部屋について座るなり、旅疲れで眠ってしまったようだ

そんな杏奈を泰子はベットへ運ぶ

 

泰子と一恵も寝る支度をして、隣り合わせのベットで横になった

 

「倫子さん、本当に芯の強い人だね」一恵がふとつぶやく

「あの子が好きになった人なだけあるわね。昔からモテたけど自分から好きになることはめったになかった」泰子がつぶやく

「モテる子だったわよね...バレンタインデーとかチョコ大量に持ち帰ってきて数日間チョコ三昧だった記憶がある」一恵が懐かしむように言う

「それにしても平手打ちのエピソードは驚いたわ」泰子が笑いながら言う

「平手で打たれるあの子も、平手打ちする倫子さんも想像できない」一恵も同調する

 「でも、ああ見えて結構気が強いところもあると思う。もし庸介が生きていて結婚していたら、意外にかかあ天下になってそう」泰子が言う

「わかるかも。外では冷静な外科医、家では妻に頭が上がらない旦那になってそうね」一恵が言う

「そういう二人の未来見たかったな...あの子も子供の存在知らずに逝くなんて」

泰子は涙声になる

「倫子さんと産まれてくる子供が幸せになれるように支えていかないとね。」泰子は涙を拭いながら言う

「でも、倫子さんなら大丈夫よね。素敵なお母さんになる」一恵は穏やかにつぶやく

「頼りになるお父さんにもなりそうよね。庸介より。」泰子は穏やかに微笑みながら言う

 「お母さん...」その時眠っていた杏奈が目を覚ました

 「ごめんね、起しちゃって」泰子は謝る

「いいの。杏奈夢を見てたの」杏奈はそう言って微笑む

 「どんな夢?」

 「叔父さんと倫子さんと赤ちゃんが三人で歩いている夢」

 「まぁ...」泰子は目を潤ませる

 「叔父さん、倫子さんと赤ちゃん見守ってくれてるんだね。見守っているから安心しなさい。赤ちゃんのことよろしくと杏奈に言いに来たんだね」

 「そうね」一恵も涙ぐみながら答える

 「杏奈、赤ちゃん産まれたら、庸介叔父さんの分も可愛がる!」

 「杏奈...」泰子が杏奈を抱きしめる

「叔父さんのお話、いっぱいしてあげる」

「まぁ,,,,」一恵も目を潤ませる

 「叔父さん喜んでるわ。でも明日は早いから寝ましょう。おやすみなさい。」

 「おやすみ」

 そのうち三人は眠りに着いた

 

 

 

 

 

ガラスのボート

2001年8月8日
 
一恵と泰子、そして杏奈の三人は東京に来ていた
 
空港で降りた後、タクシーに乗り込む
 

「東京は暑いわねぇ」

泰子が扇子を仰ぎながらつぶやく

「北海道も暑いけど、東京はすごいね」

隣に座る杏奈も首筋に滴る汗をふきながらつぶやいた

「お土産、溶けないようにバッグに入れなきゃ」

泰子は手元にある北海道名産品のバターサンドを気遣う

「倫子さん元気かしら...」

一恵が窓の景色を見ながら身重の倫子を気にかける

「つわりも収まったみたいで、体調は安定しているみたいよ」

泰子はバターサンドを旅行鞄にしまいこみながら言う

「あら、杏奈どうしたのそれ?」
泰子が杏奈が手に持っている小さな袋が泰子の目に留まる
「おじさんがもっていたガラスのかけら。のりこさんにわたすの」
そう言って袋から取り出す
あの日、ボートの中にコートと一緒に遺されていた茶色の薄いガラスの欠片だ。
その形はボートのようにも見える。
 
「まぁ...倫子さん喜ぶわ」泰子が穏やかに微笑みながら言う
 
三人を乗せたタクシーは川沿いのマンションに停車した
 
「ここよ。庸介が住んでいたところで、今は倫子さんとお母様が住んでいるの。」
そう言いながら泰子はタクシーから荷物を降ろす
 
「川沿が見えるところなのね...あの子らしい」
一恵は川を見つめながらつぶやく
 
三人はマンションの中に入り、エレベーターに乗り直江が以前住んでいた部屋に向かった
 
「ここだったわね」泰子は片付けに来た時の記憶を頼りに部屋の前にたどり着く
 
表札には「志村」のプレートがかかっている。
 
「この部屋倫子さんが受け継いだのね...」
 
息子の苗字が無くなりその恋人の苗字に変わったことがその証に思われ一恵は切なく思いつつも嬉しい
 
泰子はインターフォンを押した
 
「はい」中から倫子が答える
 
「庸介の姉です。」
 
「いらっしゃーい、今行きますね」倫子はそう答えると玄関に向かう
 
倫子がドアを開けると
泰子と一恵、そして杏奈が立っていた
 
「こんにちわ、お久しぶり」泰子は挨拶をする
 
「葬式以来ですわね。逢いに行けなくてごめんなさいね。お身体は大丈夫?」一恵はそう言って倫子を気遣う
 
「えぇ、大丈夫ですよ。もう安定期に入りましたし。皆さんは大丈夫でしたか?あまり無理しないでくださいね。」倫子は大きくなったお腹をさすりながら笑顔で答える
 
「こちらのことまで気を遣ってくださるなんて...すみません...」一恵は目を潤ませる
 
「いえいえ、さぁどうぞ上がってください」
倫子に促され三人は家に上がる
 
「どうぞ座ってください」倫子は三人をソファに座るよう促すと、冷蔵庫から麦茶とジュースを取り出した
 
「あなたはまだお若いのに...あの子も籍を入れずに死ぬなんて...この度は本当にごめんなさいね」
一恵は瞳に涙を浮かべながら倫子の張り出たお腹を見つめてつぶやく
 
「そんな...この子がいるから今こうやって前向きに生きようと思えるんです。先生が何かを抱えていること、ずっと一緒にいられないんじゃないかという不安があったけど、妊娠がわかった時、この子も一緒ならどんなことがあっても乗り越えていけるって思ったんです」倫子は愛おしげにお腹を撫でながら言う
 
「それに...籍は入れていないけど、夫婦と同じぐらい愛してもらったと思っています。喧嘩したり平手打ちしたり色々あったんですよ~」倫子はお茶目に笑いながら言う
 
「平手打ち...」寡黙な息子と清楚に見える倫子の想像できない姿に泰子と一恵は顔を見合わせる
 
「あっ!ちょっと彼が発作で乱れてキスをされて、まだ恋人じゃなったんで平手打ちしちゃったんですよ」倫子が誤解を解くように言う
 
「なんだ~そうなのね」泰子と一恵はクスリと笑う
 
「のりこさん、これあげる」
杏奈が会話が落ち着くのを待って切り出し、
 ポシェットに入れた小袋を取り出し、倫子に渡す
 
「これは...?」倫子が不思議そうに杏奈にたずねる
 
「おじさんがさいごまでもっていたの。のりこさんおまもりにしてね」
 
倫子が袋を開けると、そこにはかつて自分が直江にあげたガラスのボートがあった
 
「これ...」
(先生が最後まで持ち歩き、そして今、自分のところに戻ってきたガラスのボート...
 先生はボートをおそらく私の分身と見てくれていた、でも今はこのボートが直江先生の分身として私のところに帰ってきてくれた...)
 
倫子はそう感じて胸が熱くなった
 
「杏奈ちゃん、ありがとう。これは先生の分身ね」倫子は杏奈のもとにしゃがむと目を潤ませながら杏奈の頭を撫でる
 
「のりこさん、どうしたの?」倫子の顔を覗き込みながら杏奈は倫子の頬に落ちる涙を拭く
それは医局で直江が涙を拭いてくれた時のことを思い出させた
 
「いやぁ...先生はずっとそばにいると言ってくれたけど、嘘じゃなくて本当だったんだなって」
 
倫子は泣きながら微笑みを浮かべる
 
「私は幸せだな...」倫子はつぶやく
 
「庸介もあなたに思われて幸せ者よ」一恵も涙を浮かべながら言う
 
「明日は誕生日だからガラスのボートに姿を変えて戻ってきたのかしら」泰子も涙ぐんでつぶやく
 
「さて、明日は忙しいからここでお開きにしますか」泰子は言う
 
「良かったら泊っていきませんか」倫子は誘う
 
「いえいえ、ホテル頼んだんです。倫子さんも妊娠中なんだから夜はのんびり休まないと」泰子はそう言うと倫子の肩に手を置く
 
「明日、あの子の誕生日ね。ここでみんなで何か食べましょうか」泰子は目を潤ませながら明るく言う
 
「おじさんが好きだったそばがいい~」杏奈が明るく言う
 
「じゃあそばにしますか」倫子も賛成する
 
「そうしよう!」泰子も賛成する
 
「じゃあ、明日こちらでみんなで食べましょう。付け合わせも買わないとね。どこが良いかしら~」そう言うと泰子は旅行ガイドブックを広げた
 
 
 
 
 

はじめまして

2001年1~3月放送の中居正広さん主演、「白い影」にまたハマってしまったまりかです。

 

このブログでは「白い影」のサイドストーリーを書いていきたいと思っています

 

以前ハマった時も妄想することはありましたが、書き記すに至ったのは

 

直江先生は納得して湖に身を沈めたけど、倫子との間に自分の命を受け継ぐ子供の存在を知らなかったことをすごく切なく思ったのと、私自身が直江先生と同じ年齢になる時期に来て、立派に生きられた方だけどやはり短すぎる人生だと感じ、せめて遺された人達が彼の思いを受け継いで幸せに暮らしている様子を描きたいと思ったからです

 

更に15年経過で忘れ形見の陽介ちゃんの今、長野で助けた女子高生の今などを以前に比べて想像してしまうことが多いもので^^;

 

放送当時その年に高校受験控えた14歳で、当時の私と陽介ちゃんの年齢も一緒なんですよね^^;

 

ブログの紹介はこの辺で苦笑

 

語彙力、表現力不足のかなり稚拙な文を書くことになりますが宜しくお願いします