恋の花火
誕生会の翌日、明日の飛行機で北海道に帰る泰子たちは帰り仕度をはじめていた
「今日は川沿いで花火大会があるの。行く?」倫子は杏奈を誘った
「行きたい!」杏奈は嬉しそうに答える
「そんな悪いですよ」泰子は身重の倫子を気遣い止める
「いえいえ、私も花火好きなんで...行きましょう」
そう言って杏奈と倫子は花火大会に出かけた
川沿いには出店が並び浴衣を着た人でごったがえしている
「ここに座ろう」杏奈と倫子は飲み物を買うと空いたスペースに腰をおろした
「あれ、もしかして志村さん?!」その時、後ろで聞きなれた声がした
振り返るとそこには亜紀子が立っていた
青地に白の花模様がついた古典的な柄の着物が小動物のような愛らしい顔立ちとスラリとした長身に良く似合っている
「高木さん!」倫子は驚きながらも笑みを浮かべる
「志村さんも見に来ていたのね!あれ?ご一緒にいるのは?」
「直江先生の姪っこなの」倫子は亜紀子に紹介するように言う
「直江先生の姪?美人さんね。目元が先生に良く似ているわ」
そう言われて杏奈ははにかむように笑みをうかべる
「高木さんは今日は誰かと?」倫子はうちわであおぎながらたずねる
「そうなのよ」亜紀子はとてもうれしそうに言う
「ごめん!ちょっと遅くなってしまった」その時、聞き覚えのある男性の声がした
振り向くとそこにはポロシャツとチノパン姿の小橋医師がいた
「小橋先生!」倫子は声をあげる
「志村さんお久しぶりです。お腹もすっかり大きくなって...」小橋は依然と変わらない爽やかな笑顔であいさつをする
「お久しぶりです!ということは...まさか」倫子が小橋と亜紀子を交互に見ながら笑みを浮かべる
「そう、そのまさか」亜紀子が嬉しそうに答える
「遂に、高木さんの愛がかなう日が来たのね!!良かった~高木さんと小橋先生どうなっているのか気がかりで...小橋先生ったら高木さんの想いに鈍いんだもん」倫子は自分のことのように喜ぶ
「僕もね、先月大学に用事があってやってきた河森先生に言われるまで気付かなかった」小橋が恥ずかしそうに微笑む
「河森先生がね、教えてくれてね。それでやっと気付いてデートに誘ったんだ」
「そう、今日が初デート」亜紀子が得意げに答える
「そうなんだ~お二人ともお似合いですよ。ヒューヒュー」倫子がはやし立てる
「そんなそんな照れるな...お隣にいらっしゃるのは?」小橋が杏奈に目をやる
「直江先生の姪です」倫子は紹介する
「そうですか~美人だね。直江先生に似ている。こんにちは」そう言って小橋は杏奈に優しく挨拶する
「でしょう。直江先生も一緒にいたらよく娘に間違われたみたい。あっ!お二人の邪魔しちゃダメだからこの辺で。じゃあ」倫子はそう言って場を離れる
「志村くん、花火大会を見れるまでに立直れて良かった」小橋が倫子の後ろ姿を見ながら言う
「そうね。この日、志村さんと直江先生がデートしているところに遭遇してみたかったな...」亜紀子が切なそうにつぶやく
「そうだな...」小橋もつぶやく
「でも来年は倫子さんは子供と一緒だね」亜紀子は明るく言う
「うん、そうだね。僕は奥さんと一緒」小橋が笑みを浮かべながら言う
「えっ?」亜紀子が驚いたように小橋の顔を見る
「君と結婚したいな」
「嘘...」
「本当、一緒に仕事してみて君の素晴らしさはもう知っている」
「嬉しい...」
「末永くお願いします」小橋は笑みを浮かべながら亜紀子の手を取る
花火がそんな二人を祝福するかのように夜空に響き渡った