夢へ
「3077...3077...あった~!!」
2004年2月、まだ雪で覆われている札幌で杏奈はK中学の合格発表を迎えていた
学校では成績トップ、模試でも全国トップクラスに入る杏奈だったので、塾の講師との受験直前の面談でも「合格は間違い無し」と太鼓判を押されていたが、合格発表を迎えるまでは不安だった。
K中学は道内で一番の偏差値を誇る名門私立中学校だ。叔父の母校である道内1,2番の公立進学校、札幌明館高校に受かるような生徒でも中学受験で不合格になることが珍しくはない中学である。
叔父である庸介の通った明館高校も医学部進学実績には定評があるが、K中学はそれ以上だった。中高一貫教育ゆえに授業を速くすすめられるために早めの受験対策にも定評があり、国立大医学部合格実績は全国上位を誇る。
医師を目指す杏奈にとってはまずはK中学への進学がその第一歩であった。
「良かったわね...夢に一歩近づいたね...」泰子が涙ぐみながら杏奈の手をにぎる
「3月には支笏湖に行って叔父さんにも知らせなきゃ...」杏奈もあふれ出る涙をハンカチで押えながら言う
「あの子も喜んでるわ...さて、お父さんに電話しなきゃ」泰子はそう言うと、携帯電話を取り出した
「杏奈!!受かったって!!」自宅で泰子から合格の知らせを受けた真一が一恵に知らせる
「あら~おめでとう!今日はお祝いにすき焼きね!!」一恵も合格の知らせに満面の笑みを浮かべる
2カ月後、K中学で入学式が行われていた。主席入学した杏奈が入学生代表で答辞を読み上げている。
その姿を見て一恵は18年前、明館高校主席入学者として答辞を読み上げた庸介を思い出していた。当時の光景が蘇り一恵の目から涙が落ちた
「義母さん?」その様子に気付いた真一が心配そうに見る
「ごめんね...ちょっと庸介のこと思い出して...」
「庸介くんも主席入学で答辞読んだって、泰子が自慢してたなぁ...杏奈の頭の良さは庸介くんゆずりだね。僕なんて一浪して、後期で工学部だもん」真一が杏奈の姿を見ながら言う
「いえいえ、あなたの教育が良かったのよ」一恵が涙を拭きながらも笑みを浮かべながら言う
「その教育も、叔父さんみたいな医師になりたいんだろ?と言うだけだったな。そしたらゲームに夢中になっていても途中でやめて机に向かっていた」
「あら、そうだっけ?」そう言って一恵が笑う
「私がどんなに怒っても言うこときかなかったことでも、叔父さんが天国で呆れてるよと言うだけで素直にきくんだもの」泰子もそう言って苦笑いする
入学式が終わって、家に帰ると倫子から杏奈に電話がかかってきた
「杏奈ちゃん、今日入学式だったんですって?聞いたわよ~あのK中学にトップ入学ですって?」倫子が嬉しそうに言う
「たまたま入試問題が得意分野だったんですよ。それに医学部に入学できるかどうかはこれからの頑張り次第だし。そうそう、入試終わってゲームやろうと思ったら母に「叔父さんと同じ大学行くんでしょ?それまで受験終わらないわよと止められましたよ」杏奈が苦笑いしながら言う
「ふふふ、杏奈ちゃんの弱点はあの人なのね。泰子さんが言ってたな~私のどんな説教より「叔父さんが呆れるわよ」の一言だって」そう言って倫子が笑う
「弱み握られちゃたな~あはは」杏奈もそう言って笑った