あれから1年1
2002年3月17日
「どれにしようかな~」
自分の部屋の鏡の前で杏奈は服を吟味している
「杏奈、まだ~」泰子が下から呼びかける
「はーい」
杏奈は急いで服を決め着替えると下に降りていく
「杏奈、手伝って。」泰子が出来上がった料理を渡す
「美味しそう~」
杏奈はごちそうに目を輝かせながらテーブルに運ぶ
その時電話が鳴る
「もしもし、あっ!あと10分ぐらいで着くのね!気をつけてね~」泰子はにこやかに答える
「赤ちゃんのベット用意したよ」杏奈はベットの布団を整えながら言う
「すっかり忘れた!!ありがとう!コップ準備して」
「は~い」杏奈は食器棚からコップを取り出す
そうしているうちにチャイムが鳴った
「あっ!来た見たい」
泰子と杏奈は玄関に向かった
「今開けます」
泰子はドアを開ける
そこには陽介を抱いた倫子が立っていた
「いらっしゃい、久しぶりね」泰子はにこやかに言った
「お久しぶりです。お元気でしたか?」倫子も笑顔で返す
「私たちも元気よ。倫子さんは体調どう?」産後の倫子を気遣う
「私はもうすっかり元気です。来月職場復帰します」
「体調は戻っていそうで良かった~寒いでしょう。中に入って」
泰子は中へと促す
「庸介の赤ちゃんの時にそっくり」すやすや眠る陽介を見ながら泰子はつぶやく
「あの子も子供のこと知っていたら嬉しかっただろうな。亡くなる前にね杏奈の姿を見ながら言ってたの。姉さんは好きな人との間に子供がいていいなって。それがまさに今叶っているのに...」泰子が涙ぐむ
「まぁ...」倫子もそれを聞いて目頭が熱くなる
「あっ!もうこんな時間!出前手配してくるね」泰子が出前の電話をするためにその場を離れた
「大きくなったなぁ、ようすけちゃん」杏奈は陽介の寝顔を見ながらつぶやく
「おじさんにようすけちゃんが産まれることを知らせてあげたかった。。。あの時気づいていたらな」杏奈はそう言って涙ぐむ
「あの人の嘘なら気づけないわよ」そう言うと倫子が杏奈の頭を撫でる
「死んじゃう前の日、私に言ったんです。幸せになれよ、見守っているからって」杏奈は陽介のタオルを直しながら言う
「つらいことがあっても、その言葉でがんばれるんです」杏奈は陽介の頭をなでながらつぶやいた
「杏奈ちゃん、お人形さんたくさん用意してくれたのね」倫子はベビーベットに並べられたぬいぐるみを見ながら言う
「これ、ぜんぶおじさんが取ったんです」杏奈が人形を撫でながら言う
「先生が?」倫子は目を丸くして驚く
「おじさんは、かえってくるたびにゲームセンターに連れて行ってくれて。キャッチャーが得意で、たくさんとってくれたんです」杏奈が懐かしむように笑みを浮かべる
「先生がキャッチャーしてるなんて想像できないな」倫子は直江のその姿を想像して噴き出しそうになる
ふと目をソファーにやると、中学受験案内パンフレットがあった
「杏奈ちゃん、中学受験するんですか?」
「将来の夢を考えるとしたほうが良いのかなと思っていてね」泰子がパンフレットをしまいながら言う
「へぇ~将来の夢って?」倫子は陽介の様子を観察する杏奈を見ながら聞く
「実はね...医師になりたいと言っていてね。話聞いてみたら本気みたいだから、受験させようかなって」泰子は飲み物を運びながら言う
「おじさんみたいな医師になって、びょうきで苦しむ人をたすけてあげたいんです。おじさんの意思を受けついでいきたいな」杏奈は倫子に満面の笑みを浮かべながら言う
「まぁ...杏奈ちゃん。先生も喜んでいるよ。先生も幸せだな。こんな良い子を姪に持って。」そう言って倫子は涙を浮かべる
「でも受験は大変よ!テレビゲームもそろそろ控えなきゃ」
「えぇ~ちょっとぐらいいいじゃん~」杏奈が駄々をこねる
「だめっ!そんなに甘くない!」泰子は両手を腰にあて、杏奈に活を入れる
「きびしい~、やっぱやめようかな」杏奈は弱音を吐く
「それぐらいであきらめなの!」泰子はげんこつをする真似をする
「はい!テレビゲームも勉強も両方頑張るね!」そう言って杏奈は舌を出す
「まったく~ちゃんとやんなさいよ~」泰子は呆れながらも笑みを浮かべる
「杏奈ちゃん、しばらくはゲームおあづけになりそうね」そう言って倫子は笑った