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空想ブログ  蒼い空の下で

主にドラマ「白い影」のサイドストーリーです

10年...(2)

「すみません...志村倫子さんいらっしゃいますか?」

ある日の午後、一人の老いた女性がナースステーションをたずねてきた

「志村さーん、お客様です」新人看護師の大森に呼ばれ、奥で事務作業をしていた倫子が窓口に出た

 

「志村さん、お久しぶりです。あの時は本当にお世話になりました」その女性は倫子に深々と頭を下げた

「あの...石倉さんの...ミツさん!!お久しぶりです!!」

倫子はその女性の顔を見て驚きの声をあげた

 

「あれから10年経つんですね...早かったなぁ...病院内も少し変りましたね」

病院の中庭のベンチに腰をかけたミツはそうつぶやいた

「本当にあっという間でしたよね。石倉さんを担当させて頂いたのが10年前だなんて」倫子も隣に座りつぶやく

「そうですよね。志村さんも直江先生が亡くなられて10年も経つだなんて信じられないでしょう。先日、スーパーでばったり小橋先生のご一家とお会いして...直江先生とあなたについて近況をお聞きしたら、石倉が亡くなってから一カ月もしないで亡くなられたと聞いた時は本当に驚きましたよ。」ミツはペットボトルのお茶を飲みながらつぶやく

「もう2人がいなくなって10年になるんですものね。天国で2人でなかよくやっているかな」倫子も中庭から空を見上げてつぶやく

「でも、直江先生との間に息子さんを授かられたようで...もう小学生ですって?」ミツは笑みを浮かべながら倫子に尋ねる

「そうなんです。もうヤンチャ盛りで」倫子は苦笑いしながら返す

「でも先生の分身と過ごせるのは嬉しいでしょう」ミツも笑いながらつぶやく

「えぇ、特に亡くなってからの1年間は息子の存在があったから生きれたと思っていますから。息子がいなかったら今も立直れていないかもしれないです」倫子はそう言ってペットボトルの紅茶を飲む

「私もあの人が亡くなって1年は毎日泣いてましたよ。仕事中も涙が出てしまっていて...」ミツは当時を懐かしむようにつぶやく

「ミツさんは大変だったでしょう。石倉さんが亡くなった後、一人で頑張らなくてはいけなくて。」倫子はそう言いながら、病院の廊下を仲睦ましそうに歩く老夫婦を見て当時の石倉とミツの姿を重ね合わせた

「でもね、職場の人が支えてくれてね。気分転換に食事に誘ってくれて話を聞いてくれたりね...」ミツはそう言うと少し笑みを浮かべる

その言葉に安堵した倫子がふとミツの手に目をやると、左手の薬指に指輪がはめられていた。

「ミツさん...もしかして...」それを見た倫子が思わずミツに尋ねる

「実はね、あの後良い縁に恵まれてね...結婚したの..」ミツは照れくさそうに言う

「そうだったんですね。石倉さん喜んでますよ」倫子は涙ぐみながらミツの背中に手を置く

「あの人が見守ってくれてたんでしょうね。亡くなった後、私が働くスーパーに夫が偶然買い物をしに来たの。私達は地元の幼馴染だったのだけど、私が高校卒業して上京をして以来会っていなかった。お互いに歳を取って、当時とは容姿が変わったけど、夫はネームプレートを見て私だと気がついたみたいで、向こうから話しかけて来てくれてね...」ミツが愛おしそうに結婚指輪を撫でながら語る

「へぇ~運命の再会ですね。」倫子がそう言って笑みを浮かべる

「実は夫は石倉がやっていた、焼鳥屋に食べに来たことがあってね。私はその時、用事でいなくて、知らなかったのだけど。再会したその日もあの焼鳥屋にまた食べに行きたいなと思って行ったけど閉店していて、その帰り道で私が働いていたスーパーに寄ったみたい。普段はそこのスーパーで買い物をしない人だったのだけどね。きっと石倉が引きあわせてくれたのね」ミツはそう言って空を見上げる

「ですよね。石倉さんが旦那様にミツさんを託したんでしょうね」倫子はそう言って目を潤ませながら微笑む

倫子はミツのことを思い出して胸が苦しくなることがあった。しかし、ミツが幸せな姿を見せてくれたことに安堵の気持ちでいっぱいになった。

「ミツさんとまたお会いできて本当に良かった...」倫子の目からは大粒の涙が流れ落ちる

「私も倫子さんにお礼を言えて本当に良かった...」そういうミツの目からも大粒の涙が流れ落ちた。