鬼のように生きて
2005年4月
サングラスにシャネルのスーツと言う出で立ちの女性が男性を伴い行田病院のナースステーションを訪れていた
「志村倫子さんいらっしゃる?」その女性はカウンターの川端に尋ねると同時にサングラスを外す
「あっ!あなたは...」サングラスの下からあらわれた顔に川端は驚く
「お久しぶり、宇佐美繭子です。隣にいるのはマネージャーの大場。あの時はお世話になりました。」その女性はそういうとニコリと笑って頭を下げた
院長のはからいで繭子とそのマネージャの大場、倫子の三人は応接室に通された
「宇佐美さん、お久しぶりです。去年は国際映画祭で女優賞獲りましたよね。4年前より更に活躍をされていているようですごいなぁ」倫子はそう言って久々の再会を喜ぶ
「言ったでしょ。鬼のように生きるって。あの時、私に起きたスキャンダルを糧にしてやろうと決めたのよ」繭子は得意げに語る
「あのスキャンダルで繭子は清純派としては難しくなったけど、今考えると逆にいえば清楚なイメージを覆す役をやるチャンスにもなったんだ。」大場が紙コップのコーラーを飲みながら言う
「悪女とか以前にはやらなかった役をやることで演技の幅は格段に広がったんだ。最近、女優賞を何個も頂いたけど、スキャンダルが起きる前には演技で評価されるなんてことはなかった。悪く言えば型にはまった無難な女優だった。」大場は鞄から取り出した昼食がわりのカロリーメイトを口に含みながら語る。
「賞をいただいた作品だってミニシアター系の映画だけど、スキャンダルが起こらなければ大手の映画会社の作品にしか出なかっただろうからなかっただろな」繭子はそう言って紙コップのコーヒーを飲む
「確かに繭子さん、今では激しい役をやらせたら右に出る女優さんがいないとか言われてますものね」倫子も紙コップのお茶を飲みながら言う
「直江先生にこの姿見せたかったな...」繭子はそうつぶやき目を潤ませる
「本当だよ...」大場もうなずく
「怪我の経過をみる検診で行った時に、3月に亡くなられたと聞いた時はショックだったな...」繭子はあふれ出る涙をぬぐう
「でも先生、宇佐美さんの活躍を喜んでますよ。」倫子は穏やかに微笑みながらそうつぶやく
「あら、もうこんな時間。ごめんなさいね。仕事が入ってて。もっとお話ししたいのだけど。そぷいえば、今度アニメ映画の声優やることになったの、招待券渡すから息子さんと見に来てね」繭子はそう言うとサングラスを再びかけた
「ありがとうございます。陽介も好きなアニメだから喜びますよ~」倫子はそう言ってにこやかに微笑んだ