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空想ブログ  蒼い空の下で

主にドラマ「白い影」のサイドストーリーです

5年ぶり(1)

2004年8月、東京は例年通り、真夏の暑さを迎えていた

 

「5年ぶりか...」行田病院の前に一人の男性が立っていた

 歳は40歳ぐらいだろうか、一重の切れ長の目が特徴的な凛とした顔立ちと日焼けした肌が印象的だ。

ポロシャツにチノパンをまとい、背にはリュックを背負っている。

 「あら、何かお探しですか?」その時、後ろから女性の声がした。

 振り向くと、色白でふっくらした顔つきの可愛らしい女性が立っている

 「ここの看護師さんかな?僕、5年前まで働いていた坂下晃と言います。」

 「あなたが坂下先生ですか?!私、志村倫子と言います」そう言って倫子は頭を下げた

坂下も志村と名乗ったその女性が自分のことを知っていることに不思議に思いながらも頭を下げる

 

「坂下先生、お久しぶりです。もう最近お会いしたのは5年前になるんですね」

院長室を訪れた坂下を院長がにこやかに迎える

 

「お久しぶりです。一週間前にアフリカから帰国したんです。来年から北海道の北海大に新設される救命センターにセンター長として赴任することになりました。」坂下は三樹子に出されたコーヒーを飲みながら近況を報告する。

 

「そうですか、あなたのような腕もリーダーシップもある方なら、救命センターをまとめていくでしょうね。頑張ってください」院長もそう言って激励する

 

「そういえば直江のこと川塚から聞きました。あいつ多発性骨髄腫だったんですね...なんで気付いてあげられなかったんだろう....」坂下はそう言って目に涙を浮かべた

 

「坂下先生は直江先生を充分支えてあげていましたよ。あなたと働けた時間は幸せだったと思う。あなたがいなくなってから彼にとって働きにくい環境になったのは全て私が悪い。そもそもあなたが私から外科のメンバーを守っていたから働きやすかったんだ...残った河森くんがやめたのも、あなたがいなくなって私が外科に介入するようになって直江先生の人格を変えてしまったからなんだよ」院長は悔むように言う

 

「病気の事知っていたら、説得して療養させてたのに...」坂下はそう言ってあふれ出る涙をぬぐう

 

「でもね、彼は最後まで医師でいたかったんだよ。それに最後の三カ月は志村倫子さんと言う方が彼に寄り添っていたんだ。彼女と出逢ってからの彼は穏やかだったよ」院長はそう言って坂下をなぐさめる

 

「志村倫子さんって...」坂下は先ほど玄関ではちあわせた看護師を思い出した

 

その時、院長室がノックされた。

 「パパ、河森先生と志村さん呼んできたわよ」三樹子がドアを開け、そう告げた

 「ありがとう、通して」院長がそう言うと、河森と倫子が入ってきた

 

「坂下先生お久しぶりです!!」河森がにこやかに言う

 「おぉ!久しぶりだな。聞いたぞ、行田病院の河森先生と評判みたいじゃないか。妊娠中なんだから無理するなよ」河森の大きなお腹を見て坂下は気遣いの言葉をかける

 

「志村さん、改めてこんにちは。私、直江と働いていた坂下です。」坂下はそう言って頭を下げる

 

「坂下先生のことは河森さんから聞いてましたよ。先生の部屋に彼が誕生日をお祝いしてもらっている写真ありますし」倫子はにこやかに言う

 「だから僕のこと知ってたんだね。」

 

院長室を出た後、三人は休憩室で話をする

 「ここの院長変わったよね。僕がいた時なんて、お金とスティタスのために医師やっているような人だった。」坂下が紙コップの紅茶を飲みながらつぶやく

 「皆さん、同じこと言いますよね」倫子がそうやって苦笑いする

 「直江のことがあって心を入れ替えたんだろうな。直江の生き様は僕たちに色んな事を教えてくれた」坂下が窓の外を見ながらつぶやく

 「本当にそうですよね。そんな直江先生の生き様を支えたのは倫子さん」河森がペットボトルのお茶を飲みながらつぶやく

 「いえいえ、私なんて何も出来なかった。」倫子は首を横に振りながら言う

 「倫子さんがいたから、直江は最後は穏やかだったんだよ。倫子さんが来てからまたここの病院来た時に戻ったってみんな言ってる」坂下はそう言って倫子をたたえる

 

「あら~坂下先生!!」その時、静寂な雰囲気を破るように後ろで坂下を呼ぶ声がした。振り向くと婦長が立っている

 「関口婦長!!」坂下が驚き、声をあげる

 「久しぶりです。もう関口じゃないの!西田なの!」婦長はそう言って自慢気にネームプレートを見せる。ネームプレートには「西田鶴代」と記されている。

 「西田ってことは....まさか...」坂下が苗字が変わっていることに驚き思わずつぶやく

 「内科の西田先生と結婚しました~」婦長が得意げに告げる

 「えぇ~」坂下は更に驚き、飲んでいた紅茶を思わず噴き出しそうになる

 「なぁに、その驚き方。私だってこう見えて若いころモテたんだから。ただ、気が強い女とは結婚できないと振られてきただけで。今の旦那は君の気の強いところが好きだと言ってくれてね」婦長はそう言ってのろける

 「西田先生、そういえば自分はMだと言ってたもんな」坂下が思わずつぶやく

 「今、なんか言いました?」婦長が坂下に噛みつく

 「いや、なんでもないです」坂下がごまかす

 

「婦長~玄関で待ってますね」休憩室の入口から若い看護師が顔を覗き込み婦長に告げる

 「夜勤明けだから、これから新しく入った新人の子と食事しに行くの。こちらからコミュニケーション取ってあげたいと思っててね。鞭も必要だけど飴も同じぐらい与えなきゃ」婦長がそう言ってコートの襟を整える

 「じゃあ、私はそろそろ。河森先生、無理しないでくださいね。志村さん、来年の3月17日から21日まで休み取れるようシフト調整するわね」婦長がそう言うと休憩室を後にした

 「婦長も変わったよな~新人と食事に行くなんて絶対無かった。新人には鞭しか与えない印象だったよ」坂下は婦長の変わりように驚きを隠せない

 「彼女も直江先生の生き様見て変わったのと西田先生に愛されているからなんだろうね。やっぱり恋は人を変える」河森がニヤニヤしながら言う

 「でも夫婦喧嘩した翌日は機嫌悪いよね。また前の婦長に戻る」倫子が苦笑いしながら言う

 「年に1,2回ね」河森も苦笑いする

 

「そうそう、坂下先生は付き合っている人とかいないの?」河森がたずねる

 「ふふふ、実は北海道にいるんだ。来年結婚する」坂下がはにかみながら言う

 「えぇ~!!」倫子と河森は驚きの声をあげる

 「ねぇ、どんな人?」河森が興味津々にたずねる

 「7歳年下。カメラマンやっているんだ。自然を題材にした作品をよく撮っている。山岸ゆり子と言うんだけど...聞いたことあるかな?」

 「山岸ゆり子さん...そういえば先生の部屋にある支笏湖の写真の裏に撮影者の名前として記されていた名前と同じ...もしかしてあの写真,,,」倫子は確認するように尋ねる

 「そういえば、先日あいつの作品集見ていたら、支笏湖の写真があったな...作品について聞いてみたらこれは東京にいる幼馴染に頼まれて撮影したものだと言っていた。その時心苦しそうだったな。」坂下はその時の様子を思い出しながら言う

 

数日後、倫子の家に2人の来客があった。坂下と婚約者のゆり子だ。

 「これ、間違いないです。直江君に頼まれて私が撮影したの」ゆり子が支笏湖の写真を見ながら言う。

 「5年前かな、直江君が久しぶりに私の家に尋ねてきてね、支笏湖の写真を頼まれてね、後日撮影して東京の彼の所に送ったの」ゆり子が写真を眺めながら懐柔する

 「後日、お礼の電話を彼がくれてね。眺めていると落ち着くんだありがとうって。それが彼と話した最後だったな。二年後、支笏湖で亡くなったと聞いた時は...」ゆり子がそう言って泣き崩れた

 

「でも、この写真が彼にとって癒しだったんですよ。孤独な彼を見守っていたんですから」倫子がそう言ってゆり子をなぐさめる

 

しばらくして、落ち着いたゆり子は直江との思い出を語り始めた