2004年、長野にて
2004年4月
倫子は2歳になった陽介と長野に旅行にやってきた
電車を降りて、レンタカーに乗る
タクシーの窓にうつる、東京とは違うのどかな街並みに陽介は興味津津の様子だ
「ここね...」
レンタカーに乗ってたどり着いたのは七瀬病院だった
「おぉ!志村さん!お待ちしてたよ」病院の入り口で七瀬が手を振っている
「お久しぶりです~」倫子も手を振り返す
倫子と陽介は医局に通された
「おぉ~よく来たね!君が陽介君か!」坪田医師がそう言って陽介の頭をなでる
「美男子ね。直江先生に似てる」森医師もそう言って目を細める
「直江が子供になって戻ってきたみたいだな」七瀬も笑みを浮かべながら言う
「志村さん、実はね。会わせたい人がいてね」七瀬が陽介と坪田が遊ぶ様子を見ながらつぶやいた
「私に?」倫子が不思議そうな顔をする
「院長!筒井さんお呼びしました」婦長がそう言って若い看護師を医局に連れてきた
まだ学校を出たばかりと言った感じの若い女性が婦長の後ろに立っている
「おぉ!筒井くん、直江先生の奥さんと子供だよ」七瀬は筒井と呼ばれた看護師に倫子と陽介を紹介する
「はじめまして、筒井裕子と言います。私、直江先生に私と娘の命を助けていただいたんです」そう言って裕子は倫子に頭を下げた
七瀬のはからいで、二人は応接室に二人きりになった
「6年前、私は高校の同級生との間に子供が出来たんです。親に反対されながらも産みたくて...それで高校を翌月辞めようとした矢先に事故にあいました。」筒井はお茶を飲みながら語りだした
「先生は私と娘、両方救ってくれて...入院している時先生にお世話になったことがきっかけで、私も医療の世界で働きたいって思ったんです。それまで明確な夢なんて持っていなくて、高校にはなんとなく通っている状態だったけど。先生とこの病院のスタッフさんみたいになりたいと思ったんです」
「それで、今看護の道に?」
「結婚して子育てが落ち着いて、お金をためて看護学校行こうとおもったのですが、娘の父親と上手くいかず娘が産まれてからほどなく別れたんです。それを見ていた親がお金を支援するから進学して就職しなさいと言ってくれて...それで高校も卒業させてもらって看護学校に通わせてもらったんです。今年卒業して、この病院に採用していただきました」
「まぁ...」
「娘の父親、私が出産した時から現実逃避するかのようにあまりお見舞に来なかったんです。その時、直江先生、彼に怒ってくれたな...「もう父親なんだぞって」それに対して彼が「あんたに関係ない」って言ったら、その言葉に激高した先生が殴りかかろうとして...穏やかな印象だったから驚いたな~」
(長野でもそんなことがあったのね...)倫子は直江が戸田次郎を殴ろうとした時を思い出した
「看護学校に入学した年に直江先生に会いたいと、この病院たずねたら、その年の3月に亡くなったと聞いて...お礼が言いたかったな」そう言って裕子が涙ぐむ
「あの人も天国で喜んでいるわよ」倫子も涙ぐみながらつぶやく
「看護師として立派に働いて直江先生に恥じないようにしなくてはいけませんね」裕子は流れ落ちる涙を拭きとりながら言う
「あの人も見守ってくれてるわよ」倫子が泣く裕子の背中をなでる
「そうそうウチの娘、こんなに大きくなったんですよ」裕子が鞄から携帯を取り出し娘の写真を見せる
「あら、可愛い。」
「いつか、息子さんと遊びに来てくださいね」
「えぇ、そのうち伺いますね」