新たな道
2002年7月
都内の洒落た教会に倫子は来ていた。腕にはおめかしをした陽介が抱かれている
「今日はママの職場の人とパパがお世話になった人の大切な日よ~おりこうさんにしていてね」倫子がそう言って陽介をあやす
「志村さーん」その時、後ろから聞き覚えのある声で呼ばれた
振り返ると亜紀子が立っていた、ゆったりとした黒いドレープドレスに身をつつみ、ヒールのない靴を履いている
「高木さーん!!じゃなくて小橋さんだったわね。まだ間違えちゃう。身体は大丈夫?今五か月?」
「そう。つわりはおさまったけど、ちょっと身体が重くなってきたなぁ...」亜紀子はそう言いながらお腹に手を当てる
「先に経験しているものとして、私がわかることがあれば教えるわよ。だからいつでもメールして」
「ありがとう。産まれたら陽介ちゃんと遊ばせてね」亜紀子はそう言ってニコリと笑った
「二人ともここにいたのか~」後ろで声がしたので振り向くと背広を着た小橋が立っていた
「小橋先生もお父様ですね」倫子がそう言ってひやかす
「父親になるんだと思うと嬉しい半面緊張するよ」真面目な小橋らしい返答が返ってきた
「小橋先生なら良いお父さんになりますよ」倫子が笑いながら言う
「でも以外に頼りないところもあるのよ。」ほめられて照れる夫に亜紀子がつっこんだ
「みんなもう来てたのね」その時、後ろで女性の声がした
三人が振り返るっとタイトなワインレッドのドレスを着こなした三樹子の姿があった
「三樹子さん!さすが元モデル、すごい似合ってますよ」倫子が三樹子のドレス姿の美しさに歓喜の声をあげる
「当然でしょ!あら~すっかり大きくなって」そういうと三樹子は倫子に抱かれた陽介の小さな手に触れる
4人は新郎新婦の待機室に向かった
「こんにちは~」そう言って小橋がドアをあげる
「こんにちは~今日は来てくれてありがとう」純白のベールとドレスに身を包んだ小夜子が4人を笑顔で迎える
「小夜子さんキレイ~どこかの国のお姫様みたい」倫子達が歓喜の声をあげる
「神崎にはもったいないよ」小橋が小夜子のドレス姿の美しさに感心しつぶやく
「失礼しちゃうな~」傍らで白いタキシードに身を包んだ神崎が口をとがらせる
「あら~はじめまちて。パパに似て美男子ね」小夜子はそう言いながら陽介の手にふれる
陽介も嬉しそうに笑みを返す
「全く、お前は赤ん坊まで手玉に取るのが上手いんだから~」神崎はおかしそうに笑う
「手玉に取るって、嫌な言い方ね~」小夜子が口をとがらせる
「産まれるのが男の子だったら、マザコンにしそうだな」神崎がつぶやく
「産まれるのがってことは...」一同が小夜子のお腹を見つめる
「私も来年母親になります」小夜子が照れくさそうに言う
「ハネムーンベイビー!」神崎が声をあげる
「ちょっと、あんた本当に口軽いんだから」小夜子が呆れたように神崎の肩をたたく
「来年はママ友会出来るわね」亜紀子がはりきる
「楽しみだ~」倫子も喜ぶ
その時控室がノックされた
「神崎様、河森様がお見えになってます」式場の係員は部屋に入るとそう告げた
通されたのは黒いシンプルなノースリーブドレスに身を包んだ河森とスーツを着た長身の男性だ。
「康と河森君!来てくれたのね!」小夜子が嬉しそうに康子に話しかける
「あれ?前々から知り合いなの?」神崎が不思議そうに小夜子の様子を見る
「えへへ、実はね。私たち高校で一緒のクラスだったのよ!」小夜子がそう言って舌を出して笑う
「えぇ~!!」一同は驚きの声をあげる
「喧嘩して疎遠になってて...私が子供だったから....行田病院で再会した時は驚いたな。」
「そうだったの...」倫子が聞き入る
「去年久しぶりに高校の同窓会に参加してね。そこで仲直りできたの」小夜子が康子を見ながら言う
「小夜子の気持ち考えなかった私も悪かったよ...私も行田病院で再会した時驚いたな。小夜子、昔とはうってかわって自信に満ち溢れたキャリアウーマンになっていて嬉しかった。でもこちらも意地を張って、話しかけられなかった。それどころか、一回小夜子に噛みついたことがあったよね」康子が苦笑いしながら言う。
「あれは私が悪いわよ。勤務時間中に直江先生訪ねて、直江先生と外に出てしばらく戻らなかったんだから。勤務時間中に長時間外に出るなんてと怒られて私反省するどころか、ふてくされてその場を謝りもせず抜け出した」そう言って小夜子が懐柔する
「でもこうやって仲直りできて本当に良かったな」神崎が小夜子の肩に手を置いてつぶやいた
結婚式が終わって、倫子と三樹子はホテルのカフェでお茶をする
「小夜子さんがお母様に宛てた手紙とか泣けたなぁ。」倫子がカフェモカを飲みながらつぶやく
「でもそのあとの神崎先生の弾き語りでそのムードぶちこわし」三樹子が笑いながら言う
「でも小夜子さん呆れながらも嬉しそうでしたよね」倫子がそう言って思い出し笑いをする
「小夜子さんも幸せになりそうでなにより。」三樹子は携帯付きカメラで撮影した結婚式の画像を見ながらつぶやく
「あっ!これこれブーケトスまさか婦長が受け取るとはね」倫子が得意気にブーケを持つ婦長の画像を見ながら言う
「隣にいた川端さんを押しのけてすごかったわね~」そう言って三樹子が笑いをこらえる
「あら~お二人ともまだいたの?」その時、後ろから声がした
(噂をすれば...)
二人が日頃聞きなれた声がした方向を振り向くと、そこには関口婦長が立っていた
「婦長~今日はブーケ受け取れて良かったですね。婦長にもおめでたいお話がありそうですね」倫子がそう言ってブーケを受け取る真似をする
「ふふふ、ありそうじゃなくてあったの!」婦長が嬉しそうに言う
「えぇ~!?」倫子と三樹子は目を丸くして顔を見合わせる
「何よ~その驚き方。内科の西田先生とね!来月入籍することになりました!」
「わぁ~おめでとうございます!」倫子が歓喜の声をあげる
「何よ~みんな次々に結婚していくんだから~私だって来年こそは...」三樹子がそう言ってすねるそぶりをする
「お嬢さまご安心ください!まだ川端も独身ですから」そう言って婦長は三樹子をなだめる
「婦長~結婚するなら私にブーケゆずってくださいよ~」その時、後ろから川端の声がした。振り向くと近くの席でお茶をしようとする川端達の姿があった。
「あれは無事に籍入れるまでのお守りのつもりで取ったのよ!」婦長が得意気に花束をかざす
「そんなぁ~」川端が駄々をこねる
「二人で合コンにでも出かけよっか。大学時代のツテで男性陣確保できるわよ」三樹子がそう言って川端を誘う
「ぜひっ!」川端が意気込む
「ずる~い!私達も行きた~い」そう言ってそばにいた宇野、鳥海も騒ぐ
「あんたたちはね、若いんだから自力で見つけなさいよっ」川端がそう言って二人を牽制する
「出会いはなるべく多いほうがいいんですっ」かおるが負けずに言い返す
「はいはい、行田病院の独身女性陣で合コンしましょ」三樹子がそう言ってなだめる
「やった~」かおるが喜ぶ
「若いのに負けないように、今からエステにでも行かなきゃ!」川端がそう言って手鏡を取り出し、顔を見る
「あははは」それを見ていた倫子が笑った