誕生日2
仕事が終わって、倫子は帰り仕度をしていた
「志村さん、良かったら送るよ」一緒に着替えていた河森が言う
「いえ、そんな良いですよ」そう言いながら倫子はマタニティドレスの上にパーカーを羽織る
「遠慮しないで、今日は先生の誕生日でしょ」河森が二コリとして倫子の肩に両手を置く
「なんでわかったんですか?」倫子は驚いた顔で河森を見つめる
「ふふふ、私も二年前のその日、お祝いしたんですよ。外科の医局メンバーと!」河森が腕を組みながら言う
「そうなんですか」直江先生が職場の人に誕生日を祝ってもらっていたということに倫子は驚く
「あのマンションでお祝いするんでしょ。」
「そうです」
「じゃあ送るわね」
「良いんですか?ありがとうございます」
河森が運転する倫子を乗せた車がマンションに到着した
「ありがとうございました」倫子は車を降りると運転席の河森に礼を言う
その時、マンションから倫子を迎えに泰子が出てきた
「こんにちは、あっ!運転されている方はもしかして」泰子が運転席を覗きながら言う
「あっ!もしかして、お姉さまですか?私、行田病院でお世話になりました河森です」河森も礼をする
「やはり、そうだったのね。こちらこそ弟がお世話になりました。」泰子は深々と礼をする
「じゃあ、今日はこの辺で」河森は車を発進させようとする
「あの...もし良かったら、誕生日会で作ったごちそう食べていきませんか?」泰子が言う
「いえいえ、そんな悪いですよ」河森は遠慮する
「ちょっと多めに作ったんですよ。遠慮なさらずに。庸介だって先生がお祝いしてくれるの喜びます」
「良いんですか...ありがとうございます」河森はお祝いに参加することにした
「この部屋を整理していたら、庸介が誕生日をお祝いしてもらっているような写真が出てきたの。さきほどお姿を見た時、そこに写っている方だとわかりましてね」
部屋に上がった河森にコーヒーを出しながら泰子は言う
「直江先生には本当にお世話になりました。仕事ではもちろん、恋愛相談にものってもらって」
「恋愛相談?!」一恵が驚く
「私は女子高育ちの一人っ子で、男心がわからないのでよくアドバイスもらってましたよ」河森が照れながら言う
「あの子だってそんなに恋愛経験はないのに?」泰子がおかしそうに言う
「でも、私が今の旦那に対する不満を相談したら、男性としてはこうだからこうなんだよとか男性の立場からの気持ちを語ってくれて...それとお姉さんがいるからか、私の気持ちもよく汲み取ってくれましたよ」河森笑みを浮かべながら言う
「そうそうお姉さまと私が同じ名前だって、私の下の名前知った時言ってたな」河森が昔の記憶を懐かしむように言う
「お姉さんについて、外で働くお母様を支え、僕のこともよく面倒をみてくれたと」
「まぁ...」
「それにしても姪の杏奈さんと先生似てますね。涼しげな目元とか」河森は泰子の手伝いをする杏奈を見ながら言う
「姪の杏奈ちゃんのことも話してくれたなぁ。健やかに育って欲しいって。そういえば杏奈ちゃんへのプレゼントを相談されたこともあったなぁ。そうそう玄関に会った杏奈ちゃんがかぶっていた麦わら帽子、先生がカタログ見て迷いながら注文してましたよ。どれが似合うかなとか言いながら、まぁ美人だから何でも似合うんだけどなとかのろけながら」
「まぁ...」一恵はそれを聞いて涙ぐむ
「その様子見て、先生も良いお父さんになりそうだと思いましたから。それなのに...」河森が涙ぐむ
「でも、天国で倫子さんと赤ちゃんのこと見守ってくれてますよね」河森が泣きながらも笑顔で言う
「そうですよね...」一恵と倫子も涙ぐみながら笑みを浮かべる
「出来たわよ~」泰子が上がりたての総菜を持ってくる
「さぁ、いただきますか」倫子が言う
「いただきまーす」
「塩辛と言えば、先生が分けてくれたことがありましたよ」河森がジャガイモに塩辛を乗せたものを食べながら言う
「北海道から塩辛とかよく送ったものね...」一恵は昔を思い出しながら言う
「でも先生と塩辛って想像つかないな」そばをすすりながら清美が言う
「あの子、北海道にいる時、よく塩辛とか食べてたわよ。小さいころ私が冷蔵庫にあの子がとってあった塩辛食べちゃって喧嘩になったことがある」泰子が笑いながら言う
「あの先生が食べ物で喧嘩?!」倫子が噴き出す
「いや、本当よ。それでお母さんに二人して怒られた」泰子が言う
「わたしは塩辛残そうとしたらちゃんと食べなさいとご飯にのっけられたことがある。それで泣いたら、おばあちゃんが飛んできておじさんがしかられてた」杏奈も言う
「先生が叱られる?!」想像も出来ない姿にまたもや噴き出す
「先生にも可愛い時があったのね」河森も噴き出す
その日、5人は直江の誕生日を祝いながら夜遅くまで思い出話に花を咲かせた