空想ブログ  蒼い空の下で

主にドラマ「白い影」のサイドストーリーです

5年ぶり(1)

2004年8月、東京は例年通り、真夏の暑さを迎えていた

 

「5年ぶりか...」行田病院の前に一人の男性が立っていた

 歳は40歳ぐらいだろうか、一重の切れ長の目が特徴的な凛とした顔立ちと日焼けした肌が印象的だ。

ポロシャツにチノパンをまとい、背にはリュックを背負っている。

 「あら、何かお探しですか?」その時、後ろから女性の声がした。

 振り向くと、色白でふっくらした顔つきの可愛らしい女性が立っている

 「ここの看護師さんかな?僕、5年前まで働いていた坂下晃と言います。」

 「あなたが坂下先生ですか?!私、志村倫子と言います」そう言って倫子は頭を下げた

坂下も志村と名乗ったその女性が自分のことを知っていることに不思議に思いながらも頭を下げる

 

「坂下先生、お久しぶりです。もう最近お会いしたのは5年前になるんですね」

院長室を訪れた坂下を院長がにこやかに迎える

 

「お久しぶりです。一週間前にアフリカから帰国したんです。来年から北海道の北海大に新設される救命センターにセンター長として赴任することになりました。」坂下は三樹子に出されたコーヒーを飲みながら近況を報告する。

 

「そうですか、あなたのような腕もリーダーシップもある方なら、救命センターをまとめていくでしょうね。頑張ってください」院長もそう言って激励する

 

「そういえば直江のこと川塚から聞きました。あいつ多発性骨髄腫だったんですね...なんで気付いてあげられなかったんだろう....」坂下はそう言って目に涙を浮かべた

 

「坂下先生は直江先生を充分支えてあげていましたよ。あなたと働けた時間は幸せだったと思う。あなたがいなくなってから彼にとって働きにくい環境になったのは全て私が悪い。そもそもあなたが私から外科のメンバーを守っていたから働きやすかったんだ...残った河森くんがやめたのも、あなたがいなくなって私が外科に介入するようになって直江先生の人格を変えてしまったからなんだよ」院長は悔むように言う

 

「病気の事知っていたら、説得して療養させてたのに...」坂下はそう言ってあふれ出る涙をぬぐう

 

「でもね、彼は最後まで医師でいたかったんだよ。それに最後の三カ月は志村倫子さんと言う方が彼に寄り添っていたんだ。彼女と出逢ってからの彼は穏やかだったよ」院長はそう言って坂下をなぐさめる

 

「志村倫子さんって...」坂下は先ほど玄関ではちあわせた看護師を思い出した

 

その時、院長室がノックされた。

 「パパ、河森先生と志村さん呼んできたわよ」三樹子がドアを開け、そう告げた

 「ありがとう、通して」院長がそう言うと、河森と倫子が入ってきた

 

「坂下先生お久しぶりです!!」河森がにこやかに言う

 「おぉ!久しぶりだな。聞いたぞ、行田病院の河森先生と評判みたいじゃないか。妊娠中なんだから無理するなよ」河森の大きなお腹を見て坂下は気遣いの言葉をかける

 

「志村さん、改めてこんにちは。私、直江と働いていた坂下です。」坂下はそう言って頭を下げる

 

「坂下先生のことは河森さんから聞いてましたよ。先生の部屋に彼が誕生日をお祝いしてもらっている写真ありますし」倫子はにこやかに言う

 「だから僕のこと知ってたんだね。」

 

院長室を出た後、三人は休憩室で話をする

 「ここの院長変わったよね。僕がいた時なんて、お金とスティタスのために医師やっているような人だった。」坂下が紙コップの紅茶を飲みながらつぶやく

 「皆さん、同じこと言いますよね」倫子がそうやって苦笑いする

 「直江のことがあって心を入れ替えたんだろうな。直江の生き様は僕たちに色んな事を教えてくれた」坂下が窓の外を見ながらつぶやく

 「本当にそうですよね。そんな直江先生の生き様を支えたのは倫子さん」河森がペットボトルのお茶を飲みながらつぶやく

 「いえいえ、私なんて何も出来なかった。」倫子は首を横に振りながら言う

 「倫子さんがいたから、直江は最後は穏やかだったんだよ。倫子さんが来てからまたここの病院来た時に戻ったってみんな言ってる」坂下はそう言って倫子をたたえる

 

「あら~坂下先生!!」その時、静寂な雰囲気を破るように後ろで坂下を呼ぶ声がした。振り向くと婦長が立っている

 「関口婦長!!」坂下が驚き、声をあげる

 「久しぶりです。もう関口じゃないの!西田なの!」婦長はそう言って自慢気にネームプレートを見せる。ネームプレートには「西田鶴代」と記されている。

 「西田ってことは....まさか...」坂下が苗字が変わっていることに驚き思わずつぶやく

 「内科の西田先生と結婚しました~」婦長が得意げに告げる

 「えぇ~」坂下は更に驚き、飲んでいた紅茶を思わず噴き出しそうになる

 「なぁに、その驚き方。私だってこう見えて若いころモテたんだから。ただ、気が強い女とは結婚できないと振られてきただけで。今の旦那は君の気の強いところが好きだと言ってくれてね」婦長はそう言ってのろける

 「西田先生、そういえば自分はMだと言ってたもんな」坂下が思わずつぶやく

 「今、なんか言いました?」婦長が坂下に噛みつく

 「いや、なんでもないです」坂下がごまかす

 

「婦長~玄関で待ってますね」休憩室の入口から若い看護師が顔を覗き込み婦長に告げる

 「夜勤明けだから、これから新しく入った新人の子と食事しに行くの。こちらからコミュニケーション取ってあげたいと思っててね。鞭も必要だけど飴も同じぐらい与えなきゃ」婦長がそう言ってコートの襟を整える

 「じゃあ、私はそろそろ。河森先生、無理しないでくださいね。志村さん、来年の3月17日から21日まで休み取れるようシフト調整するわね」婦長がそう言うと休憩室を後にした

 「婦長も変わったよな~新人と食事に行くなんて絶対無かった。新人には鞭しか与えない印象だったよ」坂下は婦長の変わりように驚きを隠せない

 「彼女も直江先生の生き様見て変わったのと西田先生に愛されているからなんだろうね。やっぱり恋は人を変える」河森がニヤニヤしながら言う

 「でも夫婦喧嘩した翌日は機嫌悪いよね。また前の婦長に戻る」倫子が苦笑いしながら言う

 「年に1,2回ね」河森も苦笑いする

 

「そうそう、坂下先生は付き合っている人とかいないの?」河森がたずねる

 「ふふふ、実は北海道にいるんだ。来年結婚する」坂下がはにかみながら言う

 「えぇ~!!」倫子と河森は驚きの声をあげる

 「ねぇ、どんな人?」河森が興味津々にたずねる

 「7歳年下。カメラマンやっているんだ。自然を題材にした作品をよく撮っている。山岸ゆり子と言うんだけど...聞いたことあるかな?」

 「山岸ゆり子さん...そういえば先生の部屋にある支笏湖の写真の裏に撮影者の名前として記されていた名前と同じ...もしかしてあの写真,,,」倫子は確認するように尋ねる

 「そういえば、先日あいつの作品集見ていたら、支笏湖の写真があったな...作品について聞いてみたらこれは東京にいる幼馴染に頼まれて撮影したものだと言っていた。その時心苦しそうだったな。」坂下はその時の様子を思い出しながら言う

 

数日後、倫子の家に2人の来客があった。坂下と婚約者のゆり子だ。

 「これ、間違いないです。直江君に頼まれて私が撮影したの」ゆり子が支笏湖の写真を見ながら言う。

 「5年前かな、直江君が久しぶりに私の家に尋ねてきてね、支笏湖の写真を頼まれてね、後日撮影して東京の彼の所に送ったの」ゆり子が写真を眺めながら懐柔する

 「後日、お礼の電話を彼がくれてね。眺めていると落ち着くんだありがとうって。それが彼と話した最後だったな。二年後、支笏湖で亡くなったと聞いた時は...」ゆり子がそう言って泣き崩れた

 

「でも、この写真が彼にとって癒しだったんですよ。孤独な彼を見守っていたんですから」倫子がそう言ってゆり子をなぐさめる

 

しばらくして、落ち着いたゆり子は直江との思い出を語り始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢へ

「3077...3077...あった~!!」

2004年2月、まだ雪で覆われている札幌で杏奈はK中学の合格発表を迎えていた

学校では成績トップ、模試でも全国トップクラスに入る杏奈だったので、塾の講師との受験直前の面談でも「合格は間違い無し」と太鼓判を押されていたが、合格発表を迎えるまでは不安だった。

K中学は道内で一番の偏差値を誇る名門私立中学校だ。叔父の母校である道内1,2番の公立進学校、札幌明館高校に受かるような生徒でも中学受験で不合格になることが珍しくはない中学である。

叔父である庸介の通った明館高校も医学部進学実績には定評があるが、K中学はそれ以上だった。中高一貫教育ゆえに授業を速くすすめられるために早めの受験対策にも定評があり、国立大医学部合格実績は全国上位を誇る。

医師を目指す杏奈にとってはまずはK中学への進学がその第一歩であった。

「良かったわね...夢に一歩近づいたね...」泰子が涙ぐみながら杏奈の手をにぎる

「3月には支笏湖に行って叔父さんにも知らせなきゃ...」杏奈もあふれ出る涙をハンカチで押えながら言う

「あの子も喜んでるわ...さて、お父さんに電話しなきゃ」泰子はそう言うと、携帯電話を取り出した

 「杏奈!!受かったって!!」自宅で泰子から合格の知らせを受けた真一が一恵に知らせる

「あら~おめでとう!今日はお祝いにすき焼きね!!」一恵も合格の知らせに満面の笑みを浮かべる

 

2カ月後、K中学で入学式が行われていた。主席入学した杏奈が入学生代表で答辞を読み上げている。

その姿を見て一恵は18年前、明館高校主席入学者として答辞を読み上げた庸介を思い出していた。当時の光景が蘇り一恵の目から涙が落ちた

「義母さん?」その様子に気付いた真一が心配そうに見る

「ごめんね...ちょっと庸介のこと思い出して...」

「庸介くんも主席入学で答辞読んだって、泰子が自慢してたなぁ...杏奈の頭の良さは庸介くんゆずりだね。僕なんて一浪して、後期で工学部だもん」真一が杏奈の姿を見ながら言う

「いえいえ、あなたの教育が良かったのよ」一恵が涙を拭きながらも笑みを浮かべながら言う

「その教育も、叔父さんみたいな医師になりたいんだろ?と言うだけだったな。そしたらゲームに夢中になっていても途中でやめて机に向かっていた」

「あら、そうだっけ?」そう言って一恵が笑う

「私がどんなに怒っても言うこときかなかったことでも、叔父さんが天国で呆れてるよと言うだけで素直にきくんだもの」泰子もそう言って苦笑いする

 

入学式が終わって、家に帰ると倫子から杏奈に電話がかかってきた

「杏奈ちゃん、今日入学式だったんですって?聞いたわよ~あのK中学にトップ入学ですって?」倫子が嬉しそうに言う

「たまたま入試問題が得意分野だったんですよ。それに医学部に入学できるかどうかはこれからの頑張り次第だし。そうそう、入試終わってゲームやろうと思ったら母に「叔父さんと同じ大学行くんでしょ?それまで受験終わらないわよと止められましたよ」杏奈が苦笑いしながら言う

「ふふふ、杏奈ちゃんの弱点はあの人なのね。泰子さんが言ってたな~私のどんな説教より「叔父さんが呆れるわよ」の一言だって」そう言って倫子が笑う

「弱み握られちゃたな~あはは」杏奈もそう言って笑った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2004年、長野にて

2004年4月

 

倫子は2歳になった陽介と長野に旅行にやってきた

電車を降りて、レンタカーに乗る

タクシーの窓にうつる、東京とは違うのどかな街並みに陽介は興味津津の様子だ

 

「ここね...」

レンタカーに乗ってたどり着いたのは七瀬病院だった

「おぉ!志村さん!お待ちしてたよ」病院の入り口で七瀬が手を振っている

「お久しぶりです~」倫子も手を振り返す

 

倫子と陽介は医局に通された

「おぉ~よく来たね!君が陽介君か!」坪田医師がそう言って陽介の頭をなでる

「美男子ね。直江先生に似てる」森医師もそう言って目を細める

「直江が子供になって戻ってきたみたいだな」七瀬も笑みを浮かべながら言う

 

「志村さん、実はね。会わせたい人がいてね」七瀬が陽介と坪田が遊ぶ様子を見ながらつぶやいた

「私に?」倫子が不思議そうな顔をする

「院長!筒井さんお呼びしました」婦長がそう言って若い看護師を医局に連れてきた

まだ学校を出たばかりと言った感じの若い女性が婦長の後ろに立っている

「おぉ!筒井くん、直江先生の奥さんと子供だよ」七瀬は筒井と呼ばれた看護師に倫子と陽介を紹介する

「はじめまして、筒井裕子と言います。私、直江先生に私と娘の命を助けていただいたんです」そう言って裕子は倫子に頭を下げた

 

七瀬のはからいで、二人は応接室に二人きりになった

「6年前、私は高校の同級生との間に子供が出来たんです。親に反対されながらも産みたくて...それで高校を翌月辞めようとした矢先に事故にあいました。」筒井はお茶を飲みながら語りだした

「先生は私と娘、両方救ってくれて...入院している時先生にお世話になったことがきっかけで、私も医療の世界で働きたいって思ったんです。それまで明確な夢なんて持っていなくて、高校にはなんとなく通っている状態だったけど。先生とこの病院のスタッフさんみたいになりたいと思ったんです」

「それで、今看護の道に?」

「結婚して子育てが落ち着いて、お金をためて看護学校行こうとおもったのですが、娘の父親と上手くいかず娘が産まれてからほどなく別れたんです。それを見ていた親がお金を支援するから進学して就職しなさいと言ってくれて...それで高校も卒業させてもらって看護学校に通わせてもらったんです。今年卒業して、この病院に採用していただきました」

「まぁ...」

「娘の父親、私が出産した時から現実逃避するかのようにあまりお見舞に来なかったんです。その時、直江先生、彼に怒ってくれたな...「もう父親なんだぞって」それに対して彼が「あんたに関係ない」って言ったら、その言葉に激高した先生が殴りかかろうとして...穏やかな印象だったから驚いたな~」

(長野でもそんなことがあったのね...)倫子は直江が戸田次郎を殴ろうとした時を思い出した

看護学校に入学した年に直江先生に会いたいと、この病院たずねたら、その年の3月に亡くなったと聞いて...お礼が言いたかったな」そう言って裕子が涙ぐむ

「あの人も天国で喜んでいるわよ」倫子も涙ぐみながらつぶやく

「看護師として立派に働いて直江先生に恥じないようにしなくてはいけませんね」裕子は流れ落ちる涙を拭きとりながら言う

「あの人も見守ってくれてるわよ」倫子が泣く裕子の背中をなでる

「そうそうウチの娘、こんなに大きくなったんですよ」裕子が鞄から携帯を取り出し娘の写真を見せる

「あら、可愛い。」

「いつか、息子さんと遊びに来てくださいね」

「えぇ、そのうち伺いますね」

新たな道

2002年7月

都内の洒落た教会に倫子は来ていた。腕にはおめかしをした陽介が抱かれている

「今日はママの職場の人とパパがお世話になった人の大切な日よ~おりこうさんにしていてね」倫子がそう言って陽介をあやす

「志村さーん」その時、後ろから聞き覚えのある声で呼ばれた

振り返ると亜紀子が立っていた、ゆったりとした黒いドレープドレスに身をつつみ、ヒールのない靴を履いている

「高木さーん!!じゃなくて小橋さんだったわね。まだ間違えちゃう。身体は大丈夫?今五か月?」

「そう。つわりはおさまったけど、ちょっと身体が重くなってきたなぁ...」亜紀子はそう言いながらお腹に手を当てる

「先に経験しているものとして、私がわかることがあれば教えるわよ。だからいつでもメールして」

「ありがとう。産まれたら陽介ちゃんと遊ばせてね」亜紀子はそう言ってニコリと笑った

「二人ともここにいたのか~」後ろで声がしたので振り向くと背広を着た小橋が立っていた

「小橋先生もお父様ですね」倫子がそう言ってひやかす

父親になるんだと思うと嬉しい半面緊張するよ」真面目な小橋らしい返答が返ってきた

「小橋先生なら良いお父さんになりますよ」倫子が笑いながら言う

「でも以外に頼りないところもあるのよ。」ほめられて照れる夫に亜紀子がつっこんだ

「みんなもう来てたのね」その時、後ろで女性の声がした

三人が振り返るっとタイトなワインレッドのドレスを着こなした三樹子の姿があった

「三樹子さん!さすが元モデル、すごい似合ってますよ」倫子が三樹子のドレス姿の美しさに歓喜の声をあげる

「当然でしょ!あら~すっかり大きくなって」そういうと三樹子は倫子に抱かれた陽介の小さな手に触れる

 

4人は新郎新婦の待機室に向かった

「こんにちは~」そう言って小橋がドアをあげる

「こんにちは~今日は来てくれてありがとう」純白のベールとドレスに身を包んだ小夜子が4人を笑顔で迎える

「小夜子さんキレイ~どこかの国のお姫様みたい」倫子達が歓喜の声をあげる

「神崎にはもったいないよ」小橋が小夜子のドレス姿の美しさに感心しつぶやく

「失礼しちゃうな~」傍らで白いタキシードに身を包んだ神崎が口をとがらせる

「あら~はじめまちて。パパに似て美男子ね」小夜子はそう言いながら陽介の手にふれる

陽介も嬉しそうに笑みを返す

「全く、お前は赤ん坊まで手玉に取るのが上手いんだから~」神崎はおかしそうに笑う

「手玉に取るって、嫌な言い方ね~」小夜子が口をとがらせる

「産まれるのが男の子だったら、マザコンにしそうだな」神崎がつぶやく

「産まれるのがってことは...」一同が小夜子のお腹を見つめる

「私も来年母親になります」小夜子が照れくさそうに言う

「ハネムーンベイビー!」神崎が声をあげる

「ちょっと、あんた本当に口軽いんだから」小夜子が呆れたように神崎の肩をたたく

「来年はママ友会出来るわね」亜紀子がはりきる

「楽しみだ~」倫子も喜ぶ

 

その時控室がノックされた

「神崎様、河森様がお見えになってます」式場の係員は部屋に入るとそう告げた

通されたのは黒いシンプルなノースリーブドレスに身を包んだ河森とスーツを着た長身の男性だ。

「康と河森君!来てくれたのね!」小夜子が嬉しそうに康子に話しかける

「あれ?前々から知り合いなの?」神崎が不思議そうに小夜子の様子を見る

「えへへ、実はね。私たち高校で一緒のクラスだったのよ!」小夜子がそう言って舌を出して笑う

「えぇ~!!」一同は驚きの声をあげる

「喧嘩して疎遠になってて...私が子供だったから....行田病院で再会した時は驚いたな。」

「そうだったの...」倫子が聞き入る

「去年久しぶりに高校の同窓会に参加してね。そこで仲直りできたの」小夜子が康子を見ながら言う

「小夜子の気持ち考えなかった私も悪かったよ...私も行田病院で再会した時驚いたな。小夜子、昔とはうってかわって自信に満ち溢れたキャリアウーマンになっていて嬉しかった。でもこちらも意地を張って、話しかけられなかった。それどころか、一回小夜子に噛みついたことがあったよね」康子が苦笑いしながら言う。

「あれは私が悪いわよ。勤務時間中に直江先生訪ねて、直江先生と外に出てしばらく戻らなかったんだから。勤務時間中に長時間外に出るなんてと怒られて私反省するどころか、ふてくされてその場を謝りもせず抜け出した」そう言って小夜子が懐柔する

「でもこうやって仲直りできて本当に良かったな」神崎が小夜子の肩に手を置いてつぶやいた

 

 結婚式が終わって、倫子と三樹子はホテルのカフェでお茶をする

「小夜子さんがお母様に宛てた手紙とか泣けたなぁ。」倫子がカフェモカを飲みながらつぶやく

「でもそのあとの神崎先生の弾き語りでそのムードぶちこわし」三樹子が笑いながら言う

「でも小夜子さん呆れながらも嬉しそうでしたよね」倫子がそう言って思い出し笑いをする

「小夜子さんも幸せになりそうでなにより。」三樹子は携帯付きカメラで撮影した結婚式の画像を見ながらつぶやく

「あっ!これこれブーケトスまさか婦長が受け取るとはね」倫子が得意気にブーケを持つ婦長の画像を見ながら言う

「隣にいた川端さんを押しのけてすごかったわね~」そう言って三樹子が笑いをこらえる

 「あら~お二人ともまだいたの?」その時、後ろから声がした

(噂をすれば...)

二人が日頃聞きなれた声がした方向を振り向くと、そこには関口婦長が立っていた

「婦長~今日はブーケ受け取れて良かったですね。婦長にもおめでたいお話がありそうですね」倫子がそう言ってブーケを受け取る真似をする

「ふふふ、ありそうじゃなくてあったの!」婦長が嬉しそうに言う

「えぇ~!?」倫子と三樹子は目を丸くして顔を見合わせる

「何よ~その驚き方。内科の西田先生とね!来月入籍することになりました!」

「わぁ~おめでとうございます!」倫子が歓喜の声をあげる

「何よ~みんな次々に結婚していくんだから~私だって来年こそは...」三樹子がそう言ってすねるそぶりをする

「お嬢さまご安心ください!まだ川端も独身ですから」そう言って婦長は三樹子をなだめる

「婦長~結婚するなら私にブーケゆずってくださいよ~」その時、後ろから川端の声がした。振り向くと近くの席でお茶をしようとする川端達の姿があった。

「あれは無事に籍入れるまでのお守りのつもりで取ったのよ!」婦長が得意気に花束をかざす

「そんなぁ~」川端が駄々をこねる

「二人で合コンにでも出かけよっか。大学時代のツテで男性陣確保できるわよ」三樹子がそう言って川端を誘う

「ぜひっ!」川端が意気込む

「ずる~い!私達も行きた~い」そう言ってそばにいた宇野、鳥海も騒ぐ

「あんたたちはね、若いんだから自力で見つけなさいよっ」川端がそう言って二人を牽制する

「出会いはなるべく多いほうがいいんですっ」かおるが負けずに言い返す

「はいはい、行田病院の独身女性陣で合コンしましょ」三樹子がそう言ってなだめる

「やった~」かおるが喜ぶ

「若いのに負けないように、今からエステにでも行かなきゃ!」川端がそう言って手鏡を取り出し、顔を見る

「あははは」それを見ていた倫子が笑った

 

 

 

 

あれから1年(5)

翌日、直江家の前に立つ1人の男性がいた

「ここか...」茶色いコートを着た落ち着いた風貌の初老男性がつぶやく

「あれ...もしかして七瀬先生?!」後ろから女性の声がした

近所のスーパーから買い物から帰ってきた泰子が立っている

「おぉ、久しぶりです!いきなり訪ねてすみませんね」初老の男性がそう言って会釈する

「いえいえ、長野から来て下さるなんて...本当にありがとうございます」

泰子もそう言って頭を下げる

七瀬は家に上がって仏壇に手を合わせた

「もう一年か、天国で幸せに暮らしてるかな..」七瀬は出されたコーヒーを飲みながらつぶやく

「私、あの子は今も七瀬先生の病院で働いていて、ある日ひょっこり休みとって帰ってきてくれるんじゃないかと思うことがあるんです。あの日も久々に帰ってきて出かけたきりでしたから...亡骸も見ていないですし」泰子が直江の遺影を見つめながらつぶやく

「私もだよ。また私の病院に戻ってきてくれるんじゃないかと思ってしまう。病院の雪かきしている時とか彼がひょっこり現れて手伝ってくれるんじゃないかと...」七瀬は窓の外の杏奈が作った雪山を見ながらつぶやく

「私も、雪かきしている時、小さい頃弟と雪かきしたこと思い出して涙がでましたよ」泰子は潤んだ目をおさえる

「志村倫子さんと息子さんは?」七瀬が部屋を見渡しながら尋ねる

「あいにく、ちょっとでかけておりまして...夕方まで帰ってこない感じなんですよね」泰子は時計を見ながらつぶやく

「そうですか。私も用事があってお昼には北海道を発たなければいけなくてね。残念だな。でもまた会えますよね。倫子さんによろしく」そういうと七瀬はコートを着る

「ええ、伝えておきますね」泰子もそういうとにこやかに会釈した。

 

夕方、泰子は夕飯の支度をしていた。すると玄関のチャイムが鳴った

ドアを開けるとそこには男性が立っていた。年齢は30代ぐらいだろうか、眼鏡をかけ小太りの体格をしている

「こんにちは。弟さんと北海大で一緒だった山岡洋平です。急にお訪ねしてすみません」男性はそう言って会釈する

「まぁ、この度は来て下さり、本当にありがとうございます」

泰子が頭を下げる

その時玄関のドアの後ろで話し声が聞こえてきた。少し遠くへお土産を買い物買いに行っていた倫子達が帰ってきた

「ただいま~。お客様かな。こんにちは。」真一がそう言って会釈する

「おかえり。庸介と大学病院で一緒だった山岡先生が来てくださったの」そう言って泰子は紹介する

「これは、これは...義弟がお世話になりました。わざわざありがとうございます。義弟も喜んでいますよ。倫子さん、庸介の同僚の方だよ」真一が倫子に紹介する

「お久しぶりです、山岡です。お子さん産まれたんだったね。今が一番忙しい時期だよね」そう言って山岡が気遣う

「お久しぶりです。お葬式でお会いしましたよね。あの時、私を気遣って話しかけてくれたのに、私はショック状態で相槌打つので精いっぱいですみません」倫子はそう言って頭を下げる

「いえいえ、僕のほうこそあんな時に話しかけてすみません。」

山岡は家に上がり、仏壇に手を合わせた

「目鼻立ちとか直江にそっくりだな~将来いい男になりそうだ」山岡はそう言って眠る陽介の顔を覗き込む

「実は直江が亡くなる前日に僕は直江と会ってるんです。」出せれたコーヒーを飲みながら山岡が言う

「えっ...」山岡の言葉に倫子は驚く

「札幌のホテルの前で直江と倫子さん見かけてたんです。僕もそのホテルで学会がありまして。二人とも本当にお似合いでしたよ。絶対結婚するんだろうなと思いましたから...なのに...」山岡は涙声になり言葉をつまらせる

「そうだったんですか」倫子もそう言って目を潤ませる

「前日、直江のほうから帰ってきているから会わないかと誘いがあってね。あいつから誘うなんて珍しいと思ったよ。自分の残り時間がわずかだから会いに来てくれたんだろうな...その時、あなたと一緒にいるところを見たことをちゃかしたら、あいつ照れてたよ幸せそうだった。病気さえなければ...」山岡は流れ出る涙を腕で拭う

「君に出逢えてあいつは幸せだっただろうな...あいつは亡くなる前日だったのに穏やかな顔をしていた。それは君と最後まで一緒にいれたからだよ。もう奥さんみたいなものだよ」山岡があふれ出る涙をハンカチでぬぐいながらつぶやく

「奥さんだなんて...でも彼とは短い期間だったけど、夫婦以上に濃い時間を過ごさせてもらったと思っているんです」倫子も涙ぐみながらも笑みを浮かべる

「でも君が良い人と一緒になったとしてもあいつは喜ぶと思うな」山岡が笑みを浮かべながらつぶやく

「お見合いでもしちゃおっかな?うそうそ」倫子はそう言っておどける

「ははは、今絶対天国の直江が嫉妬してそうだ」山岡が笑みを浮かべながらジョークを飛ばす

「おいおい、もう立ち直ったのかよってね」真一もつられるように言う

「案外、向こうでもモテてて、私のことなんて眼中にないかも」倫子もふざけて言う

「あはは」

一同から笑い声があがった

 

 

あれから1年(4)

「そうそう中野くんと、麻里子くっつけたのも直江」

西岡が追加で出されたクッキーを食べながら言う

「そうなんですか?」倫子が西岡のコーヒーカップにコーヒーを継ぎ足しながら言う

「実はね今日のメンバーの中で夫だけ野球部じゃないの、でもねすごいイケメンで学校中で有名だったからクラスが違う私も知っていたの。」麻里子がコーヒーを飲みながら言う

「ちなみに直江くんも負けないぐらい人気だっだわよ~A組の中野と直江、どちらがカッコいいか論争まで起きていたくらいだったんだから。二人ともイニシャルNで出席番号隣で仲良しだったからNNコンビと呼ばれていたんだから」浜田が懐かしむように語る

「私が遠くから夫を眺めているだけの関係だったんだけど、ある日私が部活の書類を間違って捨ててしまってね。部の人はもう帰った後だったから必死に一人でごみ置き場あさっていたら、たまたま自習で遅くなった夫が通りかかってね、一緒に探してくれたの」麻里子がのろけながら語る

「それで、私は夫に本気で惚れてしまって。でもね私はこの通りあんまり綺麗じゃないし、更に今より10キロ太くてあだ名はタヌキだったから、こんな私に惚れてくれるわけがないと直江君と一緒にいるところを見ているだけだった」麻里子が当時を懐かしむようにつぶやく

「高三の卒業迫ったある日、それを直江くんに見破られてね。もしかして中野のこと好きなのか?って。思い切って打ち明けたら、告白してみるかと言われて。私がライバルには綺麗で可愛い子がたくさんいるし、そんなの無理って言ったら、あいつも君に好印象を持っていると言われてね。告白の場を直江君が取り持ってくれて告白したらオッケーしてくれたの」麻里子が照れながら明かす

「へぇ~先生が恋のキューピットか」倫子がコーヒーを飲みながらつぶやく

「そうなの、彼がいたからこの人と結婚できた」麻里子が中野の腕をつかみながら得意げに言う。

中野は照れながらも嬉しそうだ

「実はね直江君が亡くなる2日前に彼と逢ったの...」麻里子が少し悲しそうにつぶやいた

「うそ...」クッキーを食べていた倫子の手が止まる

「私、彼の状況なんて知らなかったから、結婚しないの?とか聞いちゃって...そしたらねあなたとはずっと一緒にいたいと思っていると切なさそうにつぶやいたの...」

故郷の友人に語った、直江の自分への想いに倫子は目頭が熱くなる

「彼、あなたと結婚したかったんだろうな。陽介ちゃんのこと知っていたら....」麻里子がそう言いながら涙ぐむ

「本当だよ...」中野もそうつぶやき涙ぐむ

「でも、籍は入っていないけど、倫子さんは奥さんだったと思う。彼をあんなに安らかな気持ちにしたんだから」そう言って浜田も涙ぐむ

「天国で絶対、倫子さんと陽介ちゃんのこと見守っているよ」北山もそう言いながら涙する

「直江との思い出、息子さんにいつでも聞かせますよ」西岡が涙ぐみながらも笑いながら言う

「皆さんのようなお友達に恵まれて先生は本当に幸せですよ」倫子も涙ぐみながら笑みを浮かべた

 

 

あれから1年(3)

3月18日

今日は先生が亡くなって一年になる

倫子は支笏湖には来年行くことにした。

まだ少し気持ちの整理がつかないからだ

1年経過して以前のような明るさを取り戻してきた倫子だったが、亡くなった場所に行く勇気はなかった

 

それは遺された家族全員同じだった。それぞれが以前と変わらない生活に戻っているが、みんな悲しみを完全に乗り越えるにはまだ時間が必要だった

 

この日は家で静かに過ごすことにした。

 

昼食を食べ終わって後片付けが済んだ頃、電話が鳴った

 

「もしもし、直江です」泰子はしまおうとした調味料をテーブルに置きながら受話器を取る

「中野です」受話器の向こうから若い男性が鷹揚に答える

「中野さん!おはようございます。昨日はあんなに豪華なものをくださって...ありがとうございます...今日来て下さるとおっしゃってましたよね。わざわざすみませんね..あの子も喜んでいますよ...」泰子は電話口で恐縮しながら中野にお礼を言う

「実は...急に申し訳ないのですが、実は私達夫婦以外にも今日お伺いして線香を供えたいものがいて...」

「そうなんですか...準備してお待ちしておりますよ。本当にありがとうございます...」泰子は涙ぐみながら答えた

 「倫子さん、庸介の高校の同級生の人達が来てくれるわ」泰子が棚から来客用のお菓子を準備しながら言う

「まぁ...私どうしましょう...」倫子は慌てる

「お葬式にも来てくれていたし、学生時代家に来たことあるけど、みんな良い人だから安心して。」泰子はそう言って倫子をなだめる

「ですよね。先生のお友達だもの」そう言われた倫子は落ち着いて、ベットで眠る陽介の頭を撫でた

 夕食を食べ終わった頃、玄関のインターフォンが鳴った

 「はーい」

一恵と泰子が玄関のドアを開けるとそこには若い男女5人が立っていた。

先頭には中野と妻の麻里子がいる

「みなさん、わざわざ来て下さって本当にありがとう..」一恵はそう言うと涙ぐむ

こちらこそ、急に人数増えるかたちになってすみません」中野はそう言うと律儀に頭を下げる

「さぁ、上がってください」泰子は5人を家へ促す

 

「もう一年になるんですね...」お参りをし終わった中野は直江の遺影を見ながらつぶやいた

「早いものですね」一恵と泰子もしみじみとつぶやく

 

「あちらの方はもしかして...」一行の若い男性が隅に控えめに立っている倫子に視線を向け、中野に尋ねる

「西岡、直江と交際していた志村倫子さん。」

「やっぱりそうですか...お久しぶりです。お葬式の時以来ですね」5人は倫子に頭を下げた。倫子も頭を下げる

「僕は西岡孝平と言います。直江とは野球部で一緒だったんです。あいつにはよく勉強教えてもらいましたよ。おかげで留年せずに済みましたし、大学の教育学部にも受かって、今は教師をやってます」西岡と呼ばれたその男性は頭をかきながら懐柔する

西岡は細いたれ目をした素朴な顔立ちだが人のよさそうな温かい雰囲気が漂う

「野球部で一緒だったんですね」倫子はそう言うと穏やかに笑みを浮かべる

「あいつは上手かったよ~。運動神経も良かったけど判断力も抜群で動きに無駄かなかった」西岡は頭を指さしながら得意気に語る

「俺が教師目指したのはね、あいつに言われた一言がきっかけだった。

高3の時、将来の夢で悩んで”俺にはとりえがない、何が得意で何が向いているのかわからない”とつぶやいたら、直江が”西岡は誰に対しても平等に接するし、おおらかだし、相手の目線に立って考えることも出来る、何より実は周りをすごく見ている。人を育てる仕事とか向いてそうだよな”と言われてさ。それがきっかけで教師目指したんですよ。」西岡は出されたコーヒーを飲みながら、答える

「あの子ったら、そんなアドバイスを...」外では寡黙な弟の意外な一面に泰子が驚き目を丸くする

「教師になって8年目になりますけど、大変だけどやりがいのある仕事だなと思っています。あの時アドバイスしてくれたからこの仕事やろうと考えられたんです」西岡はコーヒーに添えられたクッキーをかじりながら言う

「北山、お前も直江にかなりお世話になったよな~」西岡が隣に座る男性に話を振る

「そうなんですよ、あっ僕、北山真と言います。直江さんとは野球部の一年先輩後輩でした。僕は直江先輩に何度助けられたことか...理不尽な上級生がいて俺たち後輩が無茶なルールを強いられた時に、その上級生に毅然と抗議してくれたんです。みんなその上級生を恐れて何も言えなかったけど、直江先輩は理論整然とした抗議が出来たから、その先輩も大人しく折れましたよ。それとある時、ガールフレンドに振られて落ち込んで練習に身に入らなかったら、そういうことを部活にまで引きずって自分のやることをおろそかにするんじゃない、気持ちを切り替えろとカツを入れられましたよ。直江先輩の言うとおりですけどね」北山と呼ばれた小太りのその男性は照れながら答える

「先生らしいな」倫子はそう言って笑った

「でも、あんた、何回も振られて、その度に直江くんにカツを入れられるの繰り返しだったよね」北山の隣に座っていた女性がにやにや笑いながら突っ込みを入れる

「うるさいな~浜田こそ、男に二股かけられて捨てられてかなりへこんでいた時あったじゃん。それを見た直江が「あんな男と別れられて良かったと思ったほうが良い、まだ出逢いなんてたくさんある、浜田ならちゃんとした男と付き合えるんだから」とか言われて励まされてたじゃん。」

「そうだっけ~」浜田と呼ばれたその女性が上目づかいに舌を出す真似をしてとぼける

浜田はきりっとした顔立ちに、ボブヘア、グレーのパンツスーツを着こなしキャリアウーマンという風貌だ

「おいおい、とぼけやがって~でもその数週間後に練習試合で知り合った、隣町の高校の野球部と付き合いだして、直江先輩をはじめ野球部全員が呆れたという」北山が悪戯っ子のような笑みを浮かべながら明かす

「ちょっと~そこは言わない約束でしょ」浜田が北山につかみかかる

「ひゃ~ごめんなさいっ」北山はそう言いながらはしゃぐ

「それにしてもあの北山が六菱不動産札幌支社の営業トップなんだもんな」みんなの様子を微笑ましく見ていた中野がつぶやいた

「全く、信じられない~でも昔から話し上手だったよね。だからガールフレンドも途切れなかった。ミス札幌明館高だった子とも付き合ってたよね」麻里子が思い出すようにつぶやく。

「まぁ、ミスにはエロい話ばかり話して3日で振られたけどな」中野がオチをつける

「もう~うるさいな。俺も直江先輩にお前はお調子ものだけど誰とでも打ち解けられるし年配の人からもなんだかんだで気にいられる。営業職とか向いてそうだよなと言われたから、それで営業を選んだ」北山は急に真面目な表情になりつぶやいた

「私も会計やっていた時に、浜田は几帳面だなとほめられたことが妙に頭に残っていてね。その几帳面さを活かせるってことで銀行員になったの」浜田が髪をかき上げながら答える

「なんか直江の言葉で人生を導かれたよな俺たち....」西岡がコーヒーを飲み干すと、つぶやいた

「だよな。直江に助けられたことたくさんある。俺たちも直江を助けてあげたかったな...甘えて欲しかった...」中野は途中で涙声になりながら言った

「そうそう、直江くんはなんでも出来る人だったけど、唯一苦手なのが歌だったよね。試合の打ち上げでカラオケに行ったけど、みんながすすめても断固として歌わなかった。高校の合唱コンクールの時すごい音程の声がするなと思っていたら隣にいる直江くんからだった」浜田が懐かしむように言う

「そうだよな。あいつにも苦手なものあるんだと驚いたよ」中野が笑いながら言う

合唱コンクール近くになるとお風呂で歌ってたな~すごい音程だった。近所の人に弟さん歌はご愛敬なんだねと言われた」泰子も笑いながら言う

「直江先生が?!」あの直江からは想像もつかない行動に倫子は驚きの声をあげる

合唱コンクールで指導者に音痴と指摘されてムキになって練習したんだろうな。先輩負けず嫌いなところあったから」北山も笑いながら言う

「あはははは」一同から笑いの声があがった