読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

空想ブログ  蒼い空の下で

主にドラマ「白い影」のサイドストーリーです

2004年、長野にて

2004年4月

 

倫子は2歳になった陽介と長野に旅行にやってきた

電車を降りて、レンタカーに乗る

タクシーの窓にうつる、東京とは違うのどかな街並みに陽介は興味津津の様子だ

 

「ここね...」

レンタカーに乗ってたどり着いたのは七瀬病院だった

「おぉ!志村さん!お待ちしてたよ」病院の入り口で七瀬が手を振っている

「お久しぶりです~」倫子も手を振り返す

 

倫子と陽介は医局に通された

「おぉ~よく来たね!君が陽介君か!」坪田医師がそう言って陽介の頭をなでる

「美男子ね。直江先生に似てる」森医師もそう言って目を細める

「直江が子供になって戻ってきたみたいだな」七瀬も笑みを浮かべながら言う

 

「志村さん、実はね。会わせたい人がいてね」七瀬が陽介と坪田が遊ぶ様子を見ながらつぶやいた

「私に?」倫子が不思議そうな顔をする

「院長!筒井さんお呼びしました」婦長がそう言って若い看護師を医局に連れてきた

まだ学校を出たばかりと言った感じの若い女性が婦長の後ろに立っている

「おぉ!筒井くん、直江先生の奥さんと子供だよ」七瀬は筒井と呼ばれた看護師に倫子と陽介を紹介する

「はじめまして、筒井裕子と言います。私、直江先生に私と娘の命を助けていただいたんです」そう言って裕子は倫子に頭を下げた

 

七瀬のはからいで、二人は応接室に二人きりになった

「6年前、私は高校の同級生との間に子供が出来たんです。親に反対されながらも産みたくて...それで高校を翌月辞めようとした矢先に事故にあいました。」筒井はお茶を飲みながら語りだした

「先生は私と娘、両方救ってくれて...入院している時先生にお世話になったことがきっかけで、私も医療の世界で働きたいって思ったんです。それまで明確な夢なんて持っていなくて、高校にはなんとなく通っている状態だったけど。先生とこの病院のスタッフさんみたいになりたいと思ったんです」

「それで、今看護の道に?」

「結婚して子育てが落ち着いて、お金をためて看護学校行こうとおもったのですが、娘の父親と上手くいかず娘が産まれてからほどなく別れたんです。それを見ていた親がお金を支援するから進学して就職しなさいと言ってくれて...それで高校も卒業させてもらって看護学校に通わせてもらったんです。今年卒業して、この病院に採用していただきました」

「まぁ...」

「娘の父親、私が出産した時から現実逃避するかのようにあまりお見舞に来なかったんです。その時、直江先生、彼に怒ってくれたな...「もう父親なんだぞって」それに対して彼が「あんたに関係ない」って言ったら、その言葉に激高した先生が殴りかかろうとして...穏やかな印象だったから驚いたな~」

(長野でもそんなことがあったのね...)倫子は直江が戸田次郎を殴ろうとした時を思い出した

看護学校に入学した年に直江先生に会いたいと、この病院たずねたら、その年の3月に亡くなったと聞いて...お礼が言いたかったな」そう言って裕子が涙ぐむ

「あの人も天国で喜んでいるわよ」倫子も涙ぐみながらつぶやく

「看護師として立派に働いて直江先生に恥じないようにしなくてはいけませんね」裕子は流れ落ちる涙を拭きとりながら言う

「あの人も見守ってくれてるわよ」倫子が泣く裕子の背中をなでる

「そうそうウチの娘、こんなに大きくなったんですよ」裕子が鞄から携帯を取り出し娘の写真を見せる

「あら、可愛い。」

「いつか、息子さんと遊びに来てくださいね」

「えぇ、そのうち伺いますね」

新たな道

2002年7月

都内の洒落た教会に倫子は来ていた。腕にはおめかしをした陽介が抱かれている

「今日はママの職場の人とパパがお世話になった人の大切な日よ~おりこうさんにしていてね」倫子がそう言って陽介をあやす

「志村さーん」その時、後ろから聞き覚えのある声で呼ばれた

振り返ると亜紀子が立っていた、ゆったりとした黒いドレープドレスに身をつつみ、ヒールのない靴を履いている

「高木さーん!!じゃなくて小橋さんだったわね。まだ間違えちゃう。身体は大丈夫?今五か月?」

「そう。つわりはおさまったけど、ちょっと身体が重くなってきたなぁ...」亜紀子はそう言いながらお腹に手を当てる

「先に経験しているものとして、私がわかることがあれば教えるわよ。だからいつでもメールして」

「ありがとう。産まれたら陽介ちゃんと遊ばせてね」亜紀子はそう言ってニコリと笑った

「二人ともここにいたのか~」後ろで声がしたので振り向くと背広を着た小橋が立っていた

「小橋先生もお父様ですね」倫子がそう言ってひやかす

父親になるんだと思うと嬉しい半面緊張するよ」真面目な小橋らしい返答が返ってきた

「小橋先生なら良いお父さんになりますよ」倫子が笑いながら言う

「でも以外に頼りないところもあるのよ。」ほめられて照れる夫に亜紀子がつっこんだ

「みんなもう来てたのね」その時、後ろで女性の声がした

三人が振り返るっとタイトなワインレッドのドレスを着こなした三樹子の姿があった

「三樹子さん!さすが元モデル、すごい似合ってますよ」倫子が三樹子のドレス姿の美しさに歓喜の声をあげる

「当然でしょ!あら~すっかり大きくなって」そういうと三樹子は倫子に抱かれた陽介の小さな手に触れる

 

4人は新郎新婦の待機室に向かった

「こんにちは~」そう言って小橋がドアをあげる

「こんにちは~今日は来てくれてありがとう」純白のベールとドレスに身を包んだ小夜子が4人を笑顔で迎える

「小夜子さんキレイ~どこかの国のお姫様みたい」倫子達が歓喜の声をあげる

「神崎にはもったいないよ」小橋が小夜子のドレス姿の美しさに感心しつぶやく

「失礼しちゃうな~」傍らで白いタキシードに身を包んだ神崎が口をとがらせる

「あら~はじめまちて。パパに似て美男子ね」小夜子はそう言いながら陽介の手にふれる

陽介も嬉しそうに笑みを返す

「全く、お前は赤ん坊まで手玉に取るのが上手いんだから~」神崎はおかしそうに笑う

「手玉に取るって、嫌な言い方ね~」小夜子が口をとがらせる

「産まれるのが男の子だったら、マザコンにしそうだな」神崎がつぶやく

「産まれるのがってことは...」一同が小夜子のお腹を見つめる

「私も来年母親になります」小夜子が照れくさそうに言う

「ハネムーンベイビー!」神崎が声をあげる

「ちょっと、あんた本当に口軽いんだから」小夜子が呆れたように神崎の肩をたたく

「来年はママ友会出来るわね」亜紀子がはりきる

「楽しみだ~」倫子も喜ぶ

 

その時控室がノックされた

「神崎様、河森様がお見えになってます」式場の係員は部屋に入るとそう告げた

通されたのは黒いシンプルなノースリーブドレスに身を包んだ河森とスーツを着た長身の男性だ。

「康と河森君!来てくれたのね!」小夜子が嬉しそうに康子に話しかける

「あれ?前々から知り合いなの?」神崎が不思議そうに小夜子の様子を見る

「えへへ、実はね。私たち高校で一緒のクラスだったのよ!」小夜子がそう言って舌を出して笑う

「えぇ~!!」一同は驚きの声をあげる

「喧嘩して疎遠になってて...私が子供だったから....行田病院で再会した時は驚いたな。」

「そうだったの...」倫子が聞き入る

「去年久しぶりに高校の同窓会に参加してね。そこで仲直りできたの」小夜子が康子を見ながら言う

「小夜子の気持ち考えなかった私も悪かったよ...私も行田病院で再会した時驚いたな。小夜子、昔とはうってかわって自信に満ち溢れたキャリアウーマンになっていて嬉しかった。でもこちらも意地を張って、話しかけられなかった。それどころか、一回小夜子に噛みついたことがあったよね」康子が苦笑いしながら言う。

「あれは私が悪いわよ。勤務時間中に直江先生訪ねて、直江先生と外に出てしばらく戻らなかったんだから。勤務時間中に長時間外に出るなんてと怒られて私反省するどころか、ふてくされてその場を謝りもせず抜け出した」そう言って小夜子が懐柔する

「でもこうやって仲直りできて本当に良かったな」神崎が小夜子の肩に手を置いてつぶやいた

 

 結婚式が終わって、倫子と三樹子はホテルのカフェでお茶をする

「小夜子さんがお母様に宛てた手紙とか泣けたなぁ。」倫子がカフェモカを飲みながらつぶやく

「でもそのあとの神崎先生の弾き語りでそのムードぶちこわし」三樹子が笑いながら言う

「でも小夜子さん呆れながらも嬉しそうでしたよね」倫子がそう言って思い出し笑いをする

「小夜子さんも幸せになりそうでなにより。」三樹子は携帯付きカメラで撮影した結婚式の画像を見ながらつぶやく

「あっ!これこれブーケトスまさか婦長が受け取るとはね」倫子が得意気にブーケを持つ婦長の画像を見ながら言う

「隣にいた川端さんを押しのけてすごかったわね~」そう言って三樹子が笑いをこらえる

 「あら~お二人ともまだいたの?」その時、後ろから声がした

(噂をすれば...)

二人が日頃聞きなれた声がした方向を振り向くと、そこには関口婦長が立っていた

「婦長~今日はブーケ受け取れて良かったですね。婦長にもおめでたいお話がありそうですね」倫子がそう言ってブーケを受け取る真似をする

「ふふふ、ありそうじゃなくてあったの!」婦長が嬉しそうに言う

「えぇ~!?」倫子と三樹子は目を丸くして顔を見合わせる

「何よ~その驚き方。内科の西田先生とね!来月入籍することになりました!」

「わぁ~おめでとうございます!」倫子が歓喜の声をあげる

「何よ~みんな次々に結婚していくんだから~私だって来年こそは...」三樹子がそう言ってすねるそぶりをする

「お嬢さまご安心ください!まだ川端も独身ですから」そう言って婦長は三樹子をなだめる

「婦長~結婚するなら私にブーケゆずってくださいよ~」その時、後ろから川端の声がした。振り向くと近くの席でお茶をしようとする川端達の姿があった。

「あれは無事に籍入れるまでのお守りのつもりで取ったのよ!」婦長が得意気に花束をかざす

「そんなぁ~」川端が駄々をこねる

「二人で合コンにでも出かけよっか。大学時代のツテで男性陣確保できるわよ」三樹子がそう言って川端を誘う

「ぜひっ!」川端が意気込む

「ずる~い!私達も行きた~い」そう言ってそばにいた宇野、鳥海も騒ぐ

「あんたたちはね、若いんだから自力で見つけなさいよっ」川端がそう言って二人を牽制する

「出会いはなるべく多いほうがいいんですっ」かおるが負けずに言い返す

「はいはい、行田病院の独身女性陣で合コンしましょ」三樹子がそう言ってなだめる

「やった~」かおるが喜ぶ

「若いのに負けないように、今からエステにでも行かなきゃ!」川端がそう言って手鏡を取り出し、顔を見る

「あははは」それを見ていた倫子が笑った

 

 

 

 

あれから1年(5)

翌日、直江家の前に立つ1人の男性がいた

「ここか...」茶色いコートを着た落ち着いた風貌の初老男性がつぶやく

「あれ...もしかして七瀬先生?!」後ろから女性の声がした

近所のスーパーから買い物から帰ってきた泰子が立っている

「おぉ、久しぶりです!いきなり訪ねてすみませんね」初老の男性がそう言って会釈する

「いえいえ、長野から来て下さるなんて...本当にありがとうございます」

泰子もそう言って頭を下げる

七瀬は家に上がって仏壇に手を合わせた

「もう一年か、天国で幸せに暮らしてるかな..」七瀬は出されたコーヒーを飲みながらつぶやく

「私、あの子は今も七瀬先生の病院で働いていて、ある日ひょっこり休みとって帰ってきてくれるんじゃないかと思うことがあるんです。あの日も久々に帰ってきて出かけたきりでしたから...亡骸も見ていないですし」泰子が直江の遺影を見つめながらつぶやく

「私もだよ。また私の病院に戻ってきてくれるんじゃないかと思ってしまう。病院の雪かきしている時とか彼がひょっこり現れて手伝ってくれるんじゃないかと...」七瀬は窓の外の杏奈が作った雪山を見ながらつぶやく

「私も、雪かきしている時、小さい頃弟と雪かきしたこと思い出して涙がでましたよ」泰子は潤んだ目をおさえる

「志村倫子さんと息子さんは?」七瀬が部屋を見渡しながら尋ねる

「あいにく、ちょっとでかけておりまして...夕方まで帰ってこない感じなんですよね」泰子は時計を見ながらつぶやく

「そうですか。私も用事があってお昼には北海道を発たなければいけなくてね。残念だな。でもまた会えますよね。倫子さんによろしく」そういうと七瀬はコートを着る

「ええ、伝えておきますね」泰子もそういうとにこやかに会釈した。

 

夕方、泰子は夕飯の支度をしていた。すると玄関のチャイムが鳴った

ドアを開けるとそこには男性が立っていた。年齢は30代ぐらいだろうか、眼鏡をかけ小太りの体格をしている

「こんにちは。弟さんと北海大で一緒だった山岡洋平です。急にお訪ねしてすみません」男性はそう言って会釈する

「まぁ、この度は来て下さり、本当にありがとうございます」

泰子が頭を下げる

その時玄関のドアの後ろで話し声が聞こえてきた。少し遠くへお土産を買い物買いに行っていた倫子達が帰ってきた

「ただいま~。お客様かな。こんにちは。」真一がそう言って会釈する

「おかえり。庸介と大学病院で一緒だった山岡先生が来てくださったの」そう言って泰子は紹介する

「これは、これは...義弟がお世話になりました。わざわざありがとうございます。義弟も喜んでいますよ。倫子さん、庸介の同僚の方だよ」真一が倫子に紹介する

「お久しぶりです、山岡です。お子さん産まれたんだったね。今が一番忙しい時期だよね」そう言って山岡が気遣う

「お久しぶりです。お葬式でお会いしましたよね。あの時、私を気遣って話しかけてくれたのに、私はショック状態で相槌打つので精いっぱいですみません」倫子はそう言って頭を下げる

「いえいえ、僕のほうこそあんな時に話しかけてすみません。」

山岡は家に上がり、仏壇に手を合わせた

「目鼻立ちとか直江にそっくりだな~将来いい男になりそうだ」山岡はそう言って眠る陽介の顔を覗き込む

「実は直江が亡くなる前日に僕は直江と会ってるんです。」出せれたコーヒーを飲みながら山岡が言う

「えっ...」山岡の言葉に倫子は驚く

「札幌のホテルの前で直江と倫子さん見かけてたんです。僕もそのホテルで学会がありまして。二人とも本当にお似合いでしたよ。絶対結婚するんだろうなと思いましたから...なのに...」山岡は涙声になり言葉をつまらせる

「そうだったんですか」倫子もそう言って目を潤ませる

「前日、直江のほうから帰ってきているから会わないかと誘いがあってね。あいつから誘うなんて珍しいと思ったよ。自分の残り時間がわずかだから会いに来てくれたんだろうな...その時、あなたと一緒にいるところを見たことをちゃかしたら、あいつ照れてたよ幸せそうだった。病気さえなければ...」山岡は流れ出る涙を腕で拭う

「君に出逢えてあいつは幸せだっただろうな...あいつは亡くなる前日だったのに穏やかな顔をしていた。それは君と最後まで一緒にいれたからだよ。もう奥さんみたいなものだよ」山岡があふれ出る涙をハンカチでぬぐいながらつぶやく

「奥さんだなんて...でも彼とは短い期間だったけど、夫婦以上に濃い時間を過ごさせてもらったと思っているんです」倫子も涙ぐみながらも笑みを浮かべる

「でも君が良い人と一緒になったとしてもあいつは喜ぶと思うな」山岡が笑みを浮かべながらつぶやく

「お見合いでもしちゃおっかな?うそうそ」倫子はそう言っておどける

「ははは、今絶対天国の直江が嫉妬してそうだ」山岡が笑みを浮かべながらジョークを飛ばす

「おいおい、もう立ち直ったのかよってね」真一もつられるように言う

「案外、向こうでもモテてて、私のことなんて眼中にないかも」倫子もふざけて言う

「あはは」

一同から笑い声があがった

 

 

あれから1年(4)

「そうそう中野くんと、麻里子くっつけたのも直江」

西岡が追加で出されたクッキーを食べながら言う

「そうなんですか?」倫子が西岡のコーヒーカップにコーヒーを継ぎ足しながら言う

「実はね今日のメンバーの中で夫だけ野球部じゃないの、でもねすごいイケメンで学校中で有名だったからクラスが違う私も知っていたの。」麻里子がコーヒーを飲みながら言う

「ちなみに直江くんも負けないぐらい人気だっだわよ~A組の中野と直江、どちらがカッコいいか論争まで起きていたくらいだったんだから。二人ともイニシャルNで出席番号隣で仲良しだったからNNコンビと呼ばれていたんだから」浜田が懐かしむように語る

「私が遠くから夫を眺めているだけの関係だったんだけど、ある日私が部活の書類を間違って捨ててしまってね。部の人はもう帰った後だったから必死に一人でごみ置き場あさっていたら、たまたま自習で遅くなった夫が通りかかってね、一緒に探してくれたの」麻里子がのろけながら語る

「それで、私は夫に本気で惚れてしまって。でもね私はこの通りあんまり綺麗じゃないし、更に今より10キロ太くてあだ名はタヌキだったから、こんな私に惚れてくれるわけがないと直江君と一緒にいるところを見ているだけだった」麻里子が当時を懐かしむようにつぶやく

「高三の卒業迫ったある日、それを直江くんに見破られてね。もしかして中野のこと好きなのか?って。思い切って打ち明けたら、告白しろ言われて。私がライバルには綺麗で可愛い子がたくさんいるし、そんなの無理って言ったら、あいつは外見だけで選ぶ男じゃない、内面で好きになるタイプだぞと言われてね。告白の場を直江君が取り持ってくれて告白したらオッケーしてくれたの」麻里子が照れながら明かす

「へぇ~先生が恋のキューピットか」倫子がコーヒーを飲みながらつぶやく

「そうなの、彼がいたからこの人と結婚できた」麻里子が中野の腕をつかみながら得意げに言う。

中野は照れながらも嬉しそうだ

「実はね直江君が亡くなる2日前に彼と逢ったの...」麻里子が少し悲しそうにつぶやいた

「うそ...」クッキーを食べていた倫子の手が止まる

「私、彼の状況なんて知らなかったから、結婚しないの?とか聞いちゃって...そしたらねあなたとはずっと一緒にいたいと思っていると切なさそうにつぶやいたの...」

故郷の友人に語った、直江の自分への想いに倫子は目頭が熱くなる

「彼、あなたと結婚したかったんだろうな。陽介ちゃんのこと知っていたら....」麻里子がそう言いながら涙ぐむ

「本当だよ...」中野もそうつぶやき涙ぐむ

「でも、籍は入っていないけど、倫子さんは奥さんだったと思う。彼をあんなに安らかな気持ちにしたんだから」そう言って浜田も涙ぐむ

「天国で絶対、倫子さんと陽介ちゃんのこと見守っているよ」北山もそう言いながら涙する

「直江との思い出、息子さんにいつでも聞かせますよ」西岡が涙ぐみながらも笑いながら言う

「皆さんのようなお友達に恵まれて先生は本当に幸せですよ」倫子も涙ぐみながら笑みを浮かべた

 

 

あれから1年(3)

3月18日

今日は先生が亡くなって一年になる

倫子は支笏湖には来年行くことにした。

まだ少し気持ちの整理がつかないからだ

1年経過して以前のような明るさを取り戻してきた倫子だったが、亡くなった場所に行く勇気はなかった

 

それは遺された家族全員同じだった。それぞれが以前と変わらない生活に戻っているが、みんな悲しみを完全に乗り越えるにはまだ時間が必要だった

 

この日は家で静かに過ごすことにした。

 

昼食を食べ終わって後片付けが済んだ頃、電話が鳴った

 

「もしもし、直江です」泰子はしまおうとした調味料をテーブルに置きながら受話器を取る

「中野です」受話器の向こうから若い男性が鷹揚に答える

「中野さん!おはようございます。昨日はあんなに豪華なものをくださって...ありがとうございます...今日来て下さるとおっしゃってましたよね。わざわざすみませんね..あの子も喜んでいますよ...」泰子は電話口で恐縮しながら中野にお礼を言う

「実は...急に申し訳ないのですが、実は私達夫婦以外にも今日お伺いして線香を供えたいものがいて...」

「そうなんですか...準備してお待ちしておりますよ。本当にありがとうございます...」泰子は涙ぐみながら答えた

 「倫子さん、庸介の高校の同級生の人達が来てくれるわ」泰子が棚から来客用のお菓子を準備しながら言う

「まぁ...私どうしましょう...」倫子は慌てる

「お葬式にも来てくれていたし、学生時代家に来たことあるけど、みんな良い人だから安心して。」泰子はそう言って倫子をなだめる

「ですよね。先生のお友達だもの」そう言われた倫子は落ち着いて、ベットで眠る陽介の頭を撫でた

 夕食を食べ終わった頃、玄関のインターフォンが鳴った

 「はーい」

一恵と泰子が玄関のドアを開けるとそこには若い男女5人が立っていた。

先頭には中野と妻の麻里子がいる

「みなさん、わざわざ来て下さって本当にありがとう..」一恵はそう言うと涙ぐむ

「こちらこそ、急に人数増えるかたちになってすみません」中野はそう言うと律儀に頭を下げる

「さぁ、上がってください」泰子は5人を家へ促す

 

「もう一年になるんですね...」お参りをし終わった中野は直江の遺影を見ながらつぶやいた

「早いものですね」一恵と泰子もしみじみとつぶやく

 

「あちらの方はもしかして...」一行の若い男性が隅に控えめに立っている倫子に視線を向け、中野に尋ねる

「西岡、直江と交際していた志村倫子さん。」

「やっぱりそうですか...お久しぶりです。お葬式の時以来ですね」5人は倫子に頭を下げた。倫子も頭を下げる

「僕は西岡孝平と言います。直江とは野球部で一緒だったんです。あいつにはよく勉強教えてもらいましたよ。おかげで留年せずに済みましたし、大学の教育学部にも受かって、今は教師をやってます」西岡と呼ばれたその男性は頭をかきながら懐柔する

西岡は細いたれ目をした素朴な顔立ちだが人のよさそうな温かい雰囲気が漂う

「野球部で一緒だったんですね」倫子はそう言うと穏やかに笑みを浮かべる

「あいつは上手かったよ~。運動神経も良かったけど判断力も抜群で動きに無駄かなかった」西岡は頭を指さしながら得意気に語る

「俺が教師目指したのはね、あいつに言われた一言がきっかけだった。

高3の時、将来の夢で悩んで”俺にはとりえがない、何が得意で何が向いているのかわからない”とつぶやいたら、直江が”西岡は誰に対しても平等に接するし、おおらかだし、相手の目線に立って考えることも出来る、何より実は周りをすごく見ている。人を育てる仕事とか向いてそうだよな”と言われてさ。それがきっかけで教師目指したんですよ。」西岡は出されたコーヒーを飲みながら、答える

「あの子ったら、そんなアドバイスを...」外では寡黙な弟の意外な一面に泰子が驚き目を丸くする

「教師になって8年目になりますけど、大変だけどやりがいのある仕事だなと思っています。あの時アドバイスしてくれたからこの仕事やろうと考えられたんです」西岡はコーヒーに添えられたクッキーをかじりながら言う

「北山、お前も直江にかなりお世話になったよな~」西岡が隣に座る男性に話を振る

「そうなんですよ、あっ僕、北山真と言います。直江さんとは野球部の一年先輩後輩でした。僕は直江先輩に何度助けられたことか...理不尽な上級生がいて俺たち後輩が無茶なルールを強いられた時に、その上級生に毅然と抗議してくれたんです。みんなその上級生を恐れて何も言えなかったけど、直江先輩は理論整然とした抗議が出来たから、その先輩も大人しく折れましたよ。それとある時、ガールフレンドに振られて落ち込んで練習に身に入らなかったら、そういうことを部活にまで引きずって自分のやることをおろそかにするんじゃない、気持ちを切り替えろとカツを入れられましたよ。直江先輩の言うとおりですけどね」北山と呼ばれた小太りのその男性は照れながら答える

「先生らしいな」倫子はそう言って笑った

「でも、あんた、何回も振られて、その度に直江くんにカツを入れられるの繰り返しだったよね」北山の隣に座っていた女性がにやにや笑いながら突っ込みを入れる

「うるさいな~浜田、お前こそ、男に二股かけられて捨てられてかなりへこんでいた時あったじゃん。それを見た直江が「あんな男と別れられて良かったと思ったほうが良い、まだ出逢いなんてたくさんある、浜田ならちゃんとした男と付き合えるんだから」とか言われて励まされてたじゃん。」

「そうだっけ~」浜田と呼ばれたその女性が上目づかいに舌を出す真似をしてとぼける

浜田はきりっとした顔立ちに、ボブヘア、グレーのパンツスーツを着こなしキャリアウーマンという風貌だ

「おいおい、とぼけやがって~でもその数週間後に練習試合で知り合った、隣町の高校の野球部と付き合いだして、直江先輩をはじめ野球部全員が呆れたという」北山が悪戯っ子のような笑みを浮かべながら明かす

「ちょっと~そこは言わない約束でしょ」浜田が北山につかみかかる

「ひゃ~ごめんなさいっ」北山はそう言いながらはしゃぐ

「それにしてもあの北山が○○会社札幌支社の営業成績トップなんだもんな」みんなの様子を微笑ましく見ていた中野がつぶやいた

「全く、信じられない~でも昔から話し上手だったよね。だからガールフレンドも途切れなかった。ミス札幌明館高だった子とも付き合ってたよね」麻里子が思い出すようにつぶやく。

「まぁ、ミスにはエロい話ばかり話して3日で振られたけどな」中野がオチをつける

「もう~うるさいな。俺も直江先輩にお前はお調子ものだけど誰とでも打ち解けられるし年配の人からもなんだかんだで気にいられる。営業職とか向いてそうだよなと言われたから、それで営業を選んだ」北山は急に真面目な表情になりつぶやいた

「私も会計やっていた時に、浜田は几帳面だなとほめられたことが妙に頭に残っていてね。その几帳面さを活かせるってことで銀行員になったの」浜田が髪をかき上げながら答える

「なんか直江の言葉で人生を導かれたよな俺たち....」西岡がコーヒーを飲み干すと、つぶやいた

「だよな。直江に助けられたことたくさんある。俺たちも直江を助けてあげたかったな...甘えて欲しかった...」中野は途中で涙声になりながら言った

「そうそう、直江くんはなんでも出来る人だったけど、唯一苦手なのが歌だったよね。試合の打ち上げでカラオケに行ったけど、みんながすすめても断固として歌わなかった。高校の合唱コンクールの時すごい音程の声がするなと思っていたら隣にいる直江くんからだった」浜田が懐かしむように言う

「そうだよな。あいつにも苦手なものあるんだと驚いたよ」中野が笑いながら言う

合唱コンクール近くになるとお風呂で歌ってたな~すごい音程だった。近所の人に弟さん歌はご愛敬なんだねと言われた」泰子も笑いながら言う

「直江先生が?!」あの直江からは想像もつかない行動に倫子は驚きの声をあげる

合唱コンクールで指導者に音痴と指摘されてムキになって練習したんだろうな。先輩負けず嫌いなところあったから」北山も笑いながら言う

「あはははは」一同から笑いの声があがった

 

 

あれから1年2

そのうち一恵と真一も外出先から帰宅した

「倫子さん、久しぶりね。体調は大丈夫なの?」そう言って一恵は倫子を気遣う

「あまり無理しないでくださいね。しっかり休んで」真一も気遣いの言葉をかける

「もう大丈夫ですよ。来月職場復帰します」倫子はそう言ってニコリと笑った

「子育てで大変なのに、もう仕事も再開するのね...父親の分まで頑張ってるわねぇ...」一恵はそう言うと涙ぐんだ

「私は仕事好きなので、仕事と子育て両方やったほうがリフレッシュになるんです」倫子はそう言うと茶目っけたっぷりに笑った

「まぁ...でも無理してはだめよ。してほしいことあったら私たちに何でも言ってね...」一恵はそう言うと倫子の肩にふれた

「そうそう、さっき中野食品の奥様に会ってね、これ皆さんで食べて下さいって」

一恵はそう言うと持っていた紙袋の中から新聞紙に包まれたものを取り出す

開けると中にはタラバガニが入っていた

「すご~い。こんなに豪華なものを」一同は声をあげる

「明日中野さんの奥様にお礼言わなくてはね。中野食品の息子さんと奥さんは庸介の同級生でね。奥さんは野球部のマネージャーだったの」そう言いながら一恵はタラバガニを取り出す

「そうなんですか。あっ!手伝いますよ」倫子はそう言って台所に向かった一恵の後を追う

 

食事会が終わって陽介と杏奈は寝てしまい寝室に連れていかれた

泰子と一恵は杏奈を寝かせに行き、倫子と真一は静まり返ったリビングでお茶を飲む

「明日で亡くなって一年になるんだな」真一が天井を見ながらしみじみとつぶやく

「この一年早くも長くも感じましたよ」倫子もせんべいを食べながらつぶやく

「泰子と結婚する時、庸介君と初めて会った時のことを思い出すな。彼はまだ大学生だった」真一はそう言うとリビングに飾られている写真を手に取った

それは真一と泰子の結婚式の集合写真だった。まだ20歳ぐらいの幼い顔立ちの直江がスーツを着て緊張した面持ちで写っている

「これ?先生ですか?」倫子はその青年を指さしてたずねる

「そう、まだあどけないでしょ。結婚式でスピーチをしてくれてね」そう言って真一が懐かしむように笑みを浮かべる

「先生がスピーチ?」あの寡黙な直江からは想像つかないことに倫子は思わず笑ってしまう

「泰子についてね、男前でいつも母や僕を支えてくれた。弱音を吐かずに自分のことは二の次に僕の面倒をみてくれた。そんな姉が真一さんに甘えているのを見るたびに幸せになります。とね。こんな弟を持って泰子は幸せだと思ったよ」真一は当時を思い出しながら語る

「でもね、僕らから見たら庸介くんこそ弱音を吐かずに自分のことは二の次に頑張ってきた人なんだなと思う。もっと弱音を吐かせてあげられたらな...もっと甘えて欲しかった。あなたが彼のそばにいてくれて本当に良かった」真一はそう言って涙ぐんだ

「杏奈が小さいころ、庸介くんは実家住まいだったからよく面倒を見てくれたよ。よくご飯食べさせたり、遊んでた。その様子見て彼もいつか素敵な父親になるんだなと思ってた...なのに...なんでだよ...」真一の目からは涙が滴っている

「先生がご飯作ったり、遊んでたのなんて想像つかないな」そう言って倫子も涙を手で拭く

「杏奈も将来恋人出来るんだろうなって話になったら、その時は会って見極めるとか言ってた。変な男にひっかからないように守ると。その様子をからかったら姪でもこうなんだから、娘ならデートにまでついていきそうだなと自嘲してたよ」真一は泣きながらも笑みを浮かべる

「あはは」直江の意外な姿に倫子も声をあげて笑う

「さて、そろそろ寝るとするか。おやすみ」そういうと真一は立ち上がり自室へ向かう

「おやすみなさい」倫子もにこやかに返した

 

あれから1年1

2002年3月17日

 

「どれにしようかな~」

自分の部屋の鏡の前で杏奈は服を吟味している

「杏奈、まだ~」泰子が下から呼びかける

「はーい」

杏奈は急いで服を決め着替えると下に降りていく

「杏奈、手伝って。」泰子が出来上がった料理を渡す

「美味しそう~」

杏奈はごちそうに目を輝かせながらテーブルに運ぶ

その時電話が鳴る

「もしもし、あっ!あと10分ぐらいで着くのね!気をつけてね~」泰子はにこやかに答える

 

「赤ちゃんのベット用意したよ」杏奈はベットの布団を整えながら言う

「すっかり忘れた!!ありがとう!コップ準備して」

「は~い」杏奈は食器棚からコップを取り出す

 

そうしているうちにチャイムが鳴った

「あっ!来た見たい」

泰子と杏奈は玄関に向かった

「今開けます」

泰子はドアを開ける

そこには陽介を抱いた倫子が立っていた

「いらっしゃい、久しぶりね」泰子はにこやかに言った

「お久しぶりです。お元気でしたか?」倫子も笑顔で返す

「私たちも元気よ。倫子さんは体調どう?」産後の倫子を気遣う

「私はもうすっかり元気です。来月職場復帰します」

「体調は戻っていそうで良かった~寒いでしょう。中に入って」

泰子は中へと促す

 

「庸介の赤ちゃんの時にそっくり」すやすや眠る陽介を見ながら泰子はつぶやく

「あの子も子供のこと知っていたら嬉しかっただろうな。亡くなる前にね杏奈の姿を見ながら言ってたの。姉さんは好きな人との間に子供がいていいなって。それがまさに今叶っているのに...」泰子が涙ぐむ

「まぁ...」倫子もそれを聞いて目頭が熱くなる

「あっ!もうこんな時間!出前手配してくるね」泰子が出前の電話をするためにその場を離れた

「大きくなったなぁ、ようすけちゃん」杏奈は陽介の寝顔を見ながらつぶやく

「おじさんにようすけちゃんが産まれることを知らせてあげたかった。。。あの時気づいていたらな」杏奈はそう言って涙ぐむ

「あの人の嘘なら気づけないわよ」そう言うと倫子が杏奈の頭を撫でる

「死んじゃう前の日、私に言ったんです。幸せになれよ、見守っているからって」杏奈は陽介のタオルを直しながら言う

「つらいことがあっても、その言葉でがんばれるんです」杏奈は陽介の頭をなでながらつぶやいた

 

「杏奈ちゃん、お人形さんたくさん用意してくれたのね」倫子はベビーベットに並べられたぬいぐるみを見ながら言う

「これ、ぜんぶおじさんが取ったんです」杏奈が人形を撫でながら言う

「先生が?」倫子は目を丸くして驚く

「おじさんは、かえってくるたびにゲームセンターに連れて行ってくれて。キャッチャーが得意で、たくさんとってくれたんです」杏奈が懐かしむように笑みを浮かべる

「先生がキャッチャーしてるなんて想像できないな」倫子は直江のその姿を想像して噴き出しそうになる

 

ふと目をソファーにやると、中学受験案内パンフレットがあった

「杏奈ちゃん、中学受験するんですか?」

「将来の夢を考えるとしたほうが良いのかなと思っていてね」泰子がパンフレットをしまいながら言う

「へぇ~将来の夢って?」倫子は陽介の様子を観察する杏奈を見ながら聞く

「実はね...医師になりたいと言っていてね。話聞いてみたら本気みたいだから、受験させようかなって」泰子は飲み物を運びながら言う

「おじさんみたいな医師になって、びょうきで苦しむ人をたすけてあげたいんです。おじさんの意思を受けついでいきたいな」杏奈は倫子に満面の笑みを浮かべながら言う

「まぁ...杏奈ちゃん。先生も喜んでいるよ。先生も幸せだな。こんな良い子を姪に持って。」そう言って倫子は涙を浮かべる

「でも受験は大変よ!テレビゲームもそろそろ控えなきゃ」

「えぇ~ちょっとぐらいいいじゃん~」杏奈が駄々をこねる

「だめっ!そんなに甘くない!」泰子は両手を腰にあて、杏奈に活を入れる

「きびしい~、やっぱやめようかな」杏奈は弱音を吐く

「それぐらいであきらめなの!」泰子はげんこつをする真似をする

「はい!テレビゲームも勉強も両方頑張るね!」そう言って杏奈は舌を出す

「まったく~ちゃんとやんなさいよ~」泰子は呆れながらも笑みを浮かべる

「杏奈ちゃん、しばらくはゲームおあづけになりそうね」そう言って倫子は笑った